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内容詳細
北方ルネサンスの人文主義者エラスムス(1466-1536)は,わが国では『痴愚神礼讃』とルターの論敵として知られているが,彼の文学論,言語論,政治論,教育論,神学など多岐にわたる活動はあまり知られていない。またホイジンガやツヴァイクの伝記などから彼を非政治的で観想主義者とする古典的解釈が未だに流布している。
著者は初期の『エンキリディオン』(1504)や『パネギュリクス』(同)から晩年の『教会和合修繕論』(1533)や『エクレシアステス』(1535)に至る著作を通して,歴史的,思想史的観点からエラスムスの政治思想を考察する。欧米でもエラスムスの政治思想は軽視あるいは黙殺されてきたが,本書はマキアヴェッリやトマス・モア,カルヴァンに代表されるルネサンス・宗教改革期の政治思想史理解に新たなページを開くとともにエラスムスの全体像に迫る意欲的な作品である。
彼の思想の中心には,人間が過ちを犯すことと,過ちを改めることを前提とした人間論が存在する。その可謬性と改善可能性の緊張の中で政治権力を観察し,言葉による説得を通じた「悔い改め」という自己規律が最終的な破綻を予防するという,近代政治学の権力論とは異質な政治論を展開して,現代にも豊かな示唆を与えよう。
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