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内容詳細
ギリシア・ローマ文化がキリスト教社会に絶え間なく流れ続け,ヨーロッパは形成されました。その基盤はゲルマン諸民族でした。ヨーロッパ文化はヘレニズム,ヘブライズム,ゲルマニズムを三つの柱としています。人類学的にも多人種の混合体が長い歴史と精神を通して社会的統合体として成長し,ヨーロッパは民族的な閉鎖社会から「神の国」の理念で超克された,開かれた社会を目指しました。
本書はこれら三つの源泉から流れ出す思想の姿を,若い人にも分かりやすく語り伝えます。難しい概念を読み解きながら,古代から現代まで,それぞれの時代の人々がどのように日常と思索の世界を生きていたのかを紹介します。
古典古代の歴史が中世に伝わって,ラテン語による文学の形成とローマ法が集大成され,アウグストゥス帝以来の君主制と行政組織の形成,さらにアウグスティヌスが神との対話を通してキリスト教的基礎を与えました。その後,地理上の発見に伴う交易圏の拡張,ルネサンス・宗教改革により自覚した個人の発見と近代国家の形成により,人間と社会のあり方が探究されました。デカルトとパスカル,啓蒙主義と敬虔主義など自己意識と神との葛藤をはじめ,近代は自立する自己と社会の公共性をどう調和させるのか,唯一者と実存,人権とファシズム,ニヒリズムの超克など,現代に及ぶ深刻なテーマが明快に論じられます。
最後に文学作品を通してヨーロッパ思想の多様性を学びます。民族と文化を統合したヨーロッパの歩みは,全地表的な共生へと向かい始めた私たちの未来に光を投じています。
【目次】
はじめに――ヨーロッパ思想史を学ぼう
第Ⅰ部 思想史の主流
第一章 ヨーロッパ思想の三つの柱
はじめに
1 「ヨーロッパ」という名称
2 古典文化の理性とキリスト教の霊性の接触
3 ヨーロッパ文化を形成した三つの柱
4 歴史家の見解
第二章 キリスト教とギリシア文化との交流
1 ギリシア文化との交流
2 護教家ユスティノスとプラトン主義
3 ニカイア公会議と三位一体の教義
第三章 アウグスティヌスと世紀の回心
1 『告白録』は「不安な心」が回心した物語である
第四章 中世思想の意義
1 権力構造,王権と教権
2 中世スコラ哲学の展開
第五章 一二世紀ルネサンスとヨーロッパ的愛の誕生
1 一二世紀ルネサンスの特質
2 ヨーロッパ的な愛と吟遊詩人トゥルバドゥール
3 宮廷的愛の変化と『ばら物語』
第六章 ルネサンスと宗教改革
1 ぺトラルカ,フィッチーノ,ピコ
2 エラスムスの「キリストの哲学」
3 プロテスタンティズムの職業倫理と聖俗革命
第七章 近代世界の三つの理念
1 近代的な新しい世界像
2 宗教改革と近代を分かつ深い溝
3 伝統社会から近代社会へ
第八章 デカルトとパスカル
1 デカルト哲学の特徴
2 パスカルの問いと人間の理解
3 デカルトとパスカル
第九章 啓蒙主義と敬虔主義
1 啓蒙主義とは何か
2 イギリス啓蒙
3 フランス啓蒙
4 ドイツ啓蒙
5 敬虔主義の覚醒運動
第一〇章 カントとヘーゲル
はじめに
1 カント哲学とは何か
2 ヘーゲル哲学とキリスト教
第一一章 シュティルナーとキルケゴール――唯一者と単独者
1 シュテイルナーの「唯一者」
2 キルケゴールの「単独者」
3 単独者への問いとその克服への道
第一二章 人権思想とファシズム
1 人権思想の確立
2 ファシズムとの対決
第一三章 ヨーロッパのニヒリズム
1 サルトルの無神論的ヒューマニズム
2 ドストエフスキーの「人神」と「神人」
3 やましい良心と魂の深淵
4 ニヒリズムの無神論とキリスト教信仰
第Ⅱ部 文学作品からヨーロッパ思想を理解する
一 天地創造の物語
二 ソポクレスの『オイディプス王』と人間讃歌
三 モーセの物語
四 放蕩息子の物語
五 サマリアの女の物語
六 ダンテ『神曲』
七 エラスムス『痴愚神礼讃』
八 シェイクスピア『ハムレット』その他
九 ミルトン『失楽園』
一〇 ゲーテ『ファウスト』
一一 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
一二 シャミッソー『ベーター・シュレミールの不思議な物語』
あとがき
索引