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内容詳細
二千年にわたる歴史の流れがわかる!
十字軍、宗教改革、ピューリタン革命など、世界史と密接な関係にあるキリスト教の歴史。その全体像を理解する鍵となる歴史的出来事と人物の背景を、分かりやすさに定評のある著者が解説。これまで手薄だったラテン・アメリカ、アフリカ、アジアのキリスト教史にも言及し、読者にグローバルな視点を与える。
J.ゴンサレス氏は、1937年キューバ生まれ。歴史神学の分野においてイェール大学史上最年少で学位を取得。エモリー大学などで教鞭をとり、現在は引退。スペイン語圏におけるプロテスタント神学の発展と発信を牽引してきた。
書評
教会史の全体像がよく見える、優れた入門書!
J・ゴンサレス著
金丸英子訳
これだけは知っておきたいキリスト教史
鈴木 浩
教会史を学び、同時に教える者として、有意義な本が出版されたと思い、喜んでいる。本書は、ゴンサレスも「はじめに」で指摘しているように「教会の歴史の全体像を見る」(三頁)ための入門書である。この全体像というのがカギである。
ユダヤ的環境の中で成立した教会が「ユダヤ教の伝統に対して自らの本質を明確にする」(一二頁)ところから始まり、第二ヴァティカン公会議とエキュメニズムの時代までの二千年の歴史が本書には圧縮されて詰まっている。その圧縮の度合いは、日本の歴史がわずか四行にまとめられている(一六九頁)と言えば、おおよその見当がつくであろう。
本書の構成はなかなか戦略的である。教会史の全過程が九つの時代区分に分けて論じられ、「古代教会」(第一章)から「二〇世紀と近代の終焉」(第九章)まで、それぞれに章が割り当てられている。最も長い章でも本文は一七頁、最も短い章は一〇頁であるからすぐに読めるのだが、その中でも重大な展開がある箇所はゴシック体で印刷されている。このゴシック部分を時代順に寄せ集めていくと冒頭の「概説」ができあがることになる。つまり、先頭に置かれた概説は、すでにかなり圧縮されている各章の本文が更に圧縮されて、二千年の教会史のおおまかな「全体像」を提示しているということになる。逆に言えば、「概説」の部分のやや詳しい説明が各章の本文を構成している、ということになる。
しかし、複雑な変遷を見せる歴史、それも文化や言語、政治や経済、時には(黒死病など)自然現象の圧力(影響)も受けて発展してきた教会の複雑な歴史を圧縮して要約的に描くのは、見た目以上にエネルギーのいる仕事である。それぞれの時代の継続性と変化の特質を的確に把握し、それを説得力を持って要約するためには、①歴史の詳細を知った上で、②それを一貫性のある見通しの中に整理し、③それを分かり易い表現で示す、という作業が必要になる。それができるのは、結局、教会史の大家だけである。
ゴンサレスがこの三つを兼ね備えていることは、①について言えば、教会史家としての経歴のはじめに出版した『キリスト教思想史』(新教出版社)によって証明されているし、②と③については、モチーフ研究の手法で神学思想の類型化を行って鮮やかな手並みを見せたChristian Thought Revisited(キリスト教思想再訪)や切れ味のいい定義が随所に見られる『キリスト教基本用語集』(教文館)で実証済みである。
なお各章の終わりには「推薦図書」が挙げられている。英語圏では定評のある書物ばかりである。ゴンサレスの『キリスト教史』と『キリスト教思想史』に加えて、ダウリー、マクナーズ、マーティ、シェリー、ウォーカーの五本の書物が挙げられている。章ごとに「推薦図書」があるので、章によって違った本が挙げられているのかと思ったが、すべての章で同じであった。日本語訳があったが、絶版になってしまったウォーカーの『キリスト教史』は簡単に手に入らないと思うので、次に進むのはゴンサレスの『キリスト教史』(新教出版社)ということになろうか。
欧米の教会史の常として、本書も西方教会中心の記述である。「この教会の略史概説では、全体を通して、専ら西方のキリスト教に焦点を当てています」(一二一頁)とある通りである。しかし、「それ以外にも、東方に教会が存在し続けたことを忘れるわけにはいきません」(一二二頁)と書いて、本書のような概説ではカバーできなかったとはいえ、非常に重要な点を指摘している。この記述に注目して、東方教会の歴史に目を向ける人が出て来ることを期待してのことであろうか。
本書は教会史の「全体像」を予備知識なしで知る上では、たいへんに優れた書物だと思う。わたしも教会史の授業で、何らかの形で本書を使わせてもらおうと思っている。よい訳者を得て訳文も読みやすく、親切な訳注ともども「これだけは知っておきたい」(essential)内容が込められている。
(すずき・ひろし=ルーテル学院大学キリスト教学科教授)
(四六判・一九六頁・定価一八九〇円〔税込〕・教文館)
『本のひろば』(2011年8月号)より
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