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内容詳細
1910(明治43)年の結成から100周年を迎えたキリスト教学校教育同盟の、今日までの歴史を辿る年表。各種資史料から立項した事項項目から、キリスト教学校教育が近代日本教育史に刻んだ足跡を俯瞰にする。続刊の通史編・資料編との三部作の第一。
書評
日本の教育史・伝道史に刻んだ足跡を俯瞰
キリスト教学校教育同盟百年史編纂委員会編
キリスト教学校教育同盟百年史 年表
出村 彰
二〇〇〇年六月、広島女学院で開催された第八八回キリスト教学校教育同盟(以下、「同盟」)総会は、百年史の刊行を議決した。しかし、最初の編纂委員会が開かれるまでには、さらに一年半の時間が必要だった。加盟各校から編纂委員・顧問などが選出され、第一回編纂会議が開かれたとき、ほとんどの出席者は初対面であり、百年史そのものの構成について何の成案もなかったし、資料や文献の性格や所在などもまったく不詳だった。文字どおり、手探りの出発だったことになる。
それから僅か一〇年、年表・資料篇・通史の三部構成と決定し、来年〔二〇一二〕春までの全巻刊行を予定できるところまで到達したことは、ただ驚きあるのみである。関係者の昼夜を分かたぬ情熱、時間と労力の多大な犠牲あって、初めて可能だったことは疑えない。しかも、担当者はそれぞれの本務校において教育・研究、あるいは学校運営に重い責任を持っていた。当初は三巻揃えて、同盟創設百周年までの刊行が目標だったが、作業量の膨大さ等の関係で、昨秋の記念式典では『年表』配布に留めることとなった。
編纂委員会の一貫した方針はこうだった。いささか口はばったい言い方ながらも、専門家集団による共同作業であるからには、現存する原資料に依拠し、史学方法論的な批判にも耐えるものでなければならないし、日本教育史あるいはキリスト教伝道史にも寄与するものでなければならない、と。
そのためには、まず編纂委員会内部での「風通し」が良くなければならない。稿量から言っても執筆者が複数となることは避け難いが、そうなれば各自の歴史観もキリスト教理解も、さらには記述法や文体にまでも差異のあることは理の当然となる。そこで可能なかぎり、各分野・時代区分の担当者の原稿を全体の席で実際に音読し、前後の記述との整合性、何よりも日本語としての分かりやすさを目指して努力が重ねられてきた。来春刊行予定の通史篇が、そのような努力を反映する結果となることを祈念するのみである。
この度刊行を見た『年表』についてであるが、これもまた共同作業だったことは無論だが、課題の特殊性からして、編纂委員会は特にこのための作業委員会を設置した。一般に校史や社史などでは、通史篇の完成後に年表を作成することが多いかもしれないが、今回は通史と資料篇の基本的骨格を年表の形で表出するために、年表刊行を優先することにした。
榑松かほる作業委員長〔桜美林大学〕とそのチームの勤勉と忍耐には、内部の一人として口にするのはいささかはばかられるとしても、ただ驚嘆のほかない。上記のような作業方針から、校正は編纂委員全員に送付され、分担に応じて修正箇所の提案が返送されたので、いわば、校正を校正する作業が必要になったこととなる。幸いなことに、最新のIT技術がそれを可能にした。原資料に依拠するという基本方針と、全体を通じての表記や措辞の一貫性・等質性とをどのように調和させるのか、困苦が尽きるはずもなかった。
加えて、当初予定した頁数からの圧縮を余儀なくされたため、記載事項の取捨選択もまた作業委員会を悩ますこととなった。結果的には、年表は同盟中枢の動きを骨子とし、東北・北海道、関東、関西、西南の四地区の、しかも、しばしば高度に独自で有益な諸活動は、すべて続刊の資料篇に譲ることとなった。地区によっては、例えば東北・北海道地区のように、独自に百年の歩みを刊行している。
記念式典当日配布された上製版の『年表』は、堅固な装幀と函入りの故に、辛うじてながら机上に「自立」するが、一般市販用の並製版ではそうもいかない。このことはある意味で象徴的である。キリスト教学校教育同盟各校が建学の精神を失ったとき、「立つを得ない」のである。しかも、来春、三部作が完成を見るならば、それぞれが特性を発揮し、文字どおり「故きをたず温ねて新しきを知る」拠り所として、「共に立つ」ことであろう。そうでなければならないと思わされている。大西晴樹編纂委員長〔明治学院大学〕の剛速球と変化球を綯い交ぜたリーダーシップに感謝しつつ、最終イニングに向けての努力が祝されることを祈るのみである。
最初から顧問を委嘱され、編纂委員会にはいつも温顔を見せて卓見を披露された神崎寿枝元同盟主事、土肥昭夫同志社大学名誉教授、眞山光彌金城学院大学名誉教授は既に世にない。十年という歳月は長いのか、それとも短いのか、自問する日ごろである。
(でむら・あきら=同盟百年史担当常任理事)
(B5判・一二六頁・定価一二六〇円〔税込〕・教文館)
『本のひろば』(2011年4月号)より
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