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内容詳細
キリストの福音を伝える奉仕の業
19世紀ドイツで困窮者の救済のため誕生した、ディアコニッセと呼ばれる献身女性の集団。その理念に共鳴した日本初の志願者・天羽道子(ベテスダ奉仕女母の家所属)の働きを取り上げ、詳細な記録と著述からディアコニア活動の意義を考察する。戦後日本におけるキリスト教社会福祉事業の知られざる一面を探った意欲的研究。
【目次】
Ⅰ.序論 キリスト教社会福祉におけるディアコニッセ福祉実践研究の意義とその活動史
第1章 研究の背景と目的
第2章 ディアコニッセの歴史
Ⅱ.本論 福祉実践者としての天羽道子の人物史
第1章 生い立ちと福祉実践への思い
第2章 ディアコニッセとして先駆的活動に参画する
第3章 婦人保護施設での従事者として女性の自立生活を支える
第4章 婦人保護施設長として「村人」の生活を守る
第5章 理事長として「村人」と共に生活する
第6章 名誉村長として象徴的役割を担う
Ⅲ.結論 天羽道子の実践と思想
第1章 天羽道子の福祉実践のまとめ
第2章 天羽道子の福祉実践を裏付ける思想
第3章 研究の評価と課題
書評
「底点」の人々と共に生きる天羽道子の生涯
〈評者〉木原活信
本書は、「ディアコニッセ」(ドイツで困窮者救済をする女性組織)の日本初の志願者・天羽道子さん(ベテスダ奉仕女母の家)の実践思想を詳細な歴史資料から人物史的に分析した研究であり、特にその意義をキリスト教社会福祉学の文脈に即して丁寧に論及した力作である。
著者とは、大学院生の時代から主に日本キリスト教社会福祉学会において三〇年来にわたって交流させて頂いた研究仲間である。また、研究対象である天羽道子さんとは、二〇一九年一〇月(当時九二歳)、同志社大学人文科学研究所主催「キリスト教信仰に基づく女性支援の歴史─かにた婦人の村の半世紀─」という特別フォーラムにお招きし、そのなかで「『共に生きる』ということ─『底点志向者イエス』に倣って─」というテーマで基調講演をして頂いた。その後に会食などを通じてゆっくりと交流したこともあり、本書に描かれている天羽さんの生涯と思想が一層、躍動的にリアリティをもって伝わることとなった。
ところで、本書で採用されている研究方法は人物史とされているが、通常、人物史とは過去の人物を対象とするものであるが、天羽さんは今もご健在であり、ご存命の方を対象とするのは異例である。その際に、メリットとディメリットがある。メリットは史実のなかで不明な点を直接にインタヴューを通して明らかにし、行間を埋めていくことができる点である。本書でも、天羽さんへの直接のインタヴューが歴史資料と有機的連関をもち補完的役割を果たしていた。ディメリットがないわけではない。人物史は偉人伝や伝記とは異なるので、研究対象を批判的に考察、分析することが必要不可欠であるが、ご存命の方を批判的に考察するには困難が伴うということである。
さて、本書で明らかにしているように、天羽さんは、上富坂教会の深津文雄牧師に強く影響され、特に深津牧師が主張する「底点志向」という福祉実践思想の継承者ということができる。それは「底点の人と共に頂点を目指してきた」生き方であり、特に、社会から排除され、生活に困窮する女性たち一人一人と一緒に生きてきた実践であった。
著者が本書で取り上げた特筆すべき分析方法は、実践思想を、抽象言語ではなく、五つの日常語の動詞を用いて集約して分析している点であろう。それは、「何かをしなければ」「なすべきことを為す」「させてください」「共に生きます」「お伝えします」という五つの言葉である。これは「キリスト教社会福祉が提唱していた『ディアコニア』は、この五つの福祉実践の思想として、具体的に福祉の現場で福祉実践の行動を裏付けるものとして展開されていた」(本書二七一頁)と述べる通りである。そして、これらを通して、結論としても述べるように、「キリスト教社会福祉学会がめざしてきた『ディアコニア』の具現化を、福祉実践の中で行ったのではないかという仮説」(本書二八二頁)の検証がなされており、十分に説得的であった。
著者のライフワークである本書をキリスト教社会福祉の関係者のみならず、多くの人に読まれることを期待する。