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内容詳細
〈底本への忠実さ〉と〈日本語としての読みやすさ〉を両立させた画期的な翻訳
17世紀以来、世界中の長老教会、福音主義教会において、教会の信仰規準、また教理教育の手段として用いられてきた『ウェストミンスター大教理問答』。
今日のキリスト者の霊性を具体的・実践的に養う最良の手引きと言える。
既に刊行され好評であった『ウェストミンスター信仰告白』(村川満・袴田康裕訳、一麦出版社)、『ウェストミンスター小教理問答』(袴田康裕訳、教文館)と訳語・語感の統一を図った。
【役者紹介】
1962年、浜松市に生まれる。大阪府立大学、神戸改革派神学校、スコットランドのフリー・チャーチ・カレッジなどで学ぶ。日本キリスト改革派園田教会牧師を経て、現在、神戸改革派神学校教授(歴史神学)。
著訳書に『ウェストミンスター小教理問答講解』(共著、一麦出版社、2012年)、『改革教会信仰告白集』(共編訳、教文館、2014年)、『ウェストミンスター小教理問答』(教文館、2015年)、『改革教会の伝道と教会形成』(教文館、2017年)などがある。
書評
<本のひろば2022年2月号>
キリスト者の霊性を具体的・実践的に養う最良の手引き
〈評者〉朝岡 勝
毎年、「信条学」のクラスで学生たちに「各種の翻訳を読み比べるように」と語っています。翻訳聖書の比較が有益であるのと同じく、信条も訳文の比較から学ぶことが大いにあるからです。
二〇〇九年に「ウェストミンスター信仰告白」(村川満氏との共訳)、二〇一五年に「ウェストミンスター小教理問答」を翻訳された神戸改革派神学校の袴田康裕氏による、「ウェストミンスター大教理問答」の新訳出版を感謝します。同氏はスコットランドで学ばれ、ウェストミンスター諸文書に関する数々の研究を公にするとともに、同信仰規準を採用する日本キリスト改革派教会の教師として神学教育と教会形成を担う最適任の翻訳者です。
「信仰告白」、「大教理問答」、「小教理問答」のうち、一番馴染みが薄いのが「大教理問答」でしょう。全196問という分量の多さ、論調の厳格さが「食わず嫌い」を助長してきたようです。しかし幸いなことに、私たちの手許には岡田稔訳(一九五〇年)、日本基督改革派教会信条翻訳委員会訳(一九六三年)、鈴木英昭訳(一九九七年)、松谷好明訳(二〇〇二年、改訂版二〇〇四年、三訂版二〇二一年)、宮崎彌男訳(二〇一四年)があり、今回袴田訳が加わったことでさらに各翻訳を読み比べることが可能となりました。
訳語の比較で深められる内容理解の好例として、かつて石丸新氏が『改革派カテキズム日本語訳研究』(新教出版社、一九九六年)で指摘された第4問の「the scope of the whole」を取り上げます。同書では「scope」の語が第4問では「意図」(岡田訳)、「視野」(委員会訳)と訳され、第157問では「内容」(岡田訳)、「範囲」(委員会訳)と訳されることを比較し、「目標を目指して」(フィリピ三・一四)の聖句や宗教改革者たち「スコープとしてのキリスト」の強調などから「目的」が相応しいと結論付けます(同書一一二─一一四頁)。その後に出版された各訳文を見てみると、第4問は「視点」(鈴木訳)、「目標」(松谷訳)、「目的」(宮崎訳)、第157問は「範囲」(鈴木訳)、「目標」(松谷訳)、「目的」(宮崎訳)となっており、袴田訳は第4問を「目指す目標」、第157問を「目標」としています。「目指す」が添えられることで躍動感のある訳文との印象を受けます。
特色ある箇所として、ピューリタン神学の重要テーマでありつつ小教理問答では触れられない「聖徒の堅忍」や「恵みと救いの確信」の教えが、信仰告白第17章、第18章を説き明かす仕方で第79問から第81問にかけて簡潔に表現されている点を挙げることができます。また大教理問答最大の特色である十戒論では、第98問から第152問にかけて各々の戒めの「求められていること」、「禁じられていること」が記されますが、第一戒(第104、105問)、第二戒(第108、109問)、第三戒(第112、113問)、第六戒(第135、136問)、第七戒(第138、139問)、第八戒(第141、142問)、第九戒(第144、145問)の詳細な答え方は安易に「律法主義的!」と読み飛ばさず、そこに込められた牧会的な意図を読み取っておきたい所ですし、第四戒の安息日を巡る定めや第五戒の「目上、対等、目下」の人についての定めなどは、当時のピューリタンたちの置かれた歴史的状況を踏まえて理解したいところです。いずれの日にか、訳者による注解書出版を! と願っています。