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内容詳細

宗教改革期の最もエキュメニカルな信仰告白

《最も麗しい信仰の書》と評され、今日でも信仰の手引きとして愛されている『ハイデルベルク信仰問答』。その神学的主題と構造から、宗教改革期におけるエキュメニカルな精神までを、歴史的・批評的研究から実証的に明らかにする。

「『ハイデルベルク信仰問答』という小さな書物に表されたエキュメニズムは、決して諸伝統の妥協の産物ではなく、あくまでも聖書にあらわされた神の救いの確かさと豊かさをシンプルかつ効果的に人々に伝えるための努力の結晶なのです」(訳者あとがきより)

【目次】

 略号

第一章 序論

第二章 『ハイデルベルク信仰問答』の主題と構造(問1─2)

 慰めの主題
 三重構造

第三章 律法と福音(問3─19)

第四章 摂理と予定(問20─28)

 信仰と使徒信条
 摂理
 予定

第五章 キリストと聖霊(問29─64)

 キリストの業と人格
 聖霊の働き

第六章 礼典(問65─85)

 論争
 ルター派的諸要素
 改革派的諸要素

第七章 契約(問65─85)

 ウルジヌスの著作における契約の位置
 『ハイデルベルク信仰問答』における契約
 結論

第八章 善い行いと感謝(問86─129)

 善い行い・感謝・律法
 善い行い・感謝・祈祷

第九章 『ハイデルベルク信仰問答』のエキュメニズムについての考察

 『ハイデルベルク信仰問答』のエキュメニズムの限界
 『ハイデルベルク信仰問答』のエキュメニズムの精神
 『ハイデルベルク信仰問答』のエキュメニズムの可能性

付録 『ハイデルベルク信仰問答』

訳者あとがき
索引
文献表

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書評

教会一致の道しるべ

加藤常昭

 『ハイデルベルク信仰問答』は、教会の歴史における奇跡のようなものである。未信の女性が教文館を訪れ、たまたま売り場で私の『ハイデルベルク信仰問答講話』を手に取った。装丁の美しさに惹かれたそうである。そして信仰問答の言葉に捉えられ、教会を訪ねるようになり、遂に洗礼を受けた。こんな風に今も日本の地で伝道する力のある書物は、そう多くはない。

 改革派の教会は、それぞれ自分が置かれた土地に根を下ろし、その時代に生きようとする教会のために信仰の基準になる文章を発表してきた。従って、改革教会が生んできた信仰告白、信仰問答は数が多い。そのひとつとして、一六世紀、プロテスタント教会が各地に生まれたときドイツのネッカー河畔、ハイデルベルクを首都とするプファルツ公国でその地に立つキリストの教会を確立するために教会規定を定め、礼拝の姿勢が整えられ、そこで告白すべき教会の信仰をカテキズムとして発表した。『ハイデルベルク信仰問答』である。

 『ハイデルベルク信仰問答』成立において主として働いたウルジヌスは、ヨーロッパの信仰の土壌のひとつであったブレスラウに生まれ、ヴィッテンベルクで学び、故郷ブレスラウで教師をするまでに、ルターだけではなくメランヒトンにも感化を受け、その点で純正ルター派に疑われ、やがてスイス改革派を尋ねる旅をし、ハイデルベルクで神学を教えるようになり、信仰深く、政治的感覚にも優れていたフリードリヒ三世と出会い、『ハイデルベルク信仰問答』を産むに至ったのである。

 本書は、このカテキズム成立の歴史的・神学的経緯に視線を集める。パースペクティヴは明確である。著者は二〇一三年、同じ訳者によって紹介された『ハイデルベルク信仰問答』の入門書の編著者として馴染み深いものである。『ウェストミンスター信仰問答』とともに『ハイデルベルク信仰問答』を大切にしてきた北米キリスト改革派教会(CRC)の神学者である。訳者は、本書は『ハイデルベルク信仰問答』入門』の姉妹編だと言うが趣はかなり異なる。ちなみにCRCは日本キリスト改革派教会と緊密な関わりを持つ教会であり、訳者は神戸改革派神学校の校長である。

 ビエルマは驚嘆に値する博識を生かして何をやったのか。本書は『ハイデルベルク信仰問答』の神学を論じるのに、副題が示すように、この信仰問答こそ、当時のプロテスタント改革がもたらした神学・信仰の総合に他ならないと言う主張の書であり、それを丁寧に実証して見せるのである。

 特に聖餐論に象徴されるように、ルターの改革から生まれた諸教会の間の実践的・神学的対立は既に顕著で、教会の姿も異なり、収拾がつかないと思われた。その対立の悲劇の遺産に、われわれが今も悩んでいるのだとも言える。そこで、しかし、『ハイデルベルク信仰問答』は既に対立を超えて一致する道を示していたのだと言う。だからこそ、改めてこのパースペクティヴにおける検討をして見せている意味があるのである。

 慰めから始め、信仰問答全体を、その視点から分析していく叙述はおもしろい。既に問1とルターの『小教理問答』との比較だけでも興味深い。福音を慰めとしたのは牧会的な捉え方から来るとし、聖書そのものに聴いて、失われた者の神による発見の物語を語る『ハイデルベルク信仰問答』は、今改めて教会一致への道しるべとなるのだと、この改革派の神学者は言う。もとよりカトリック教会と戦わざるを得なかったので問に代表されるように、今日のエキュメニズムの視点から見れば限界はあるが。

 日本でも改革派の伝統に生きる諸教会が『ハイデルベルク信仰問答』を愛してきた。しかし、同時に教派の相違を超えても愛用されてきたのではないか。それを促す信仰問答なのである。多忙の中で翻訳の労を取られた訳者に謝意を表したい。

(かとう・つねあき=神学者)

『本のひろば』(2018年1月号)より