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内容詳細
聖書解釈の手引き
ヘブライ語で旧約聖書を読むにはどうしたらよいか? 正しい釈義に必要な作業とは? 資料や文献、コンピュータの活用法は? 基礎から実践までを段階を踏んで解説。牧師や教師や学生のみならず、聖書を学ぶすべての人にとって不可欠のガイドブック、待望の旧約編!
書評
牧師・神学生の説教準備に必読の書!
小友 聡
旧約聖書を学ぶ神学生や牧師たちのためのとても良い本が出版されました。本書は旧約聖書釈義に欠かせないガイドブックです。これまで旧約聖書釈義の教科書と言えば、H・バルト/O・H・シュテック(山我哲雄訳)『旧約聖書釈義入門』(日本基督教団出版局)がありました。しかし、内容が煩瑣で難しく、初学者が使いこなすにはハードルが高すぎました。このたび出版された『旧約聖書の釈義』は旧約聖書釈義の入門的手引きとしてもってこいです。これは、すでに刊行されているG・D・フィー(永田竹司訳)『新約聖書の釈義』の旧約編。『旧約聖書神学事典』の翻訳者である山吉智久氏により翻訳されました。
著者ダグラス・スチュワートは米国のゴードン・コンウェル神学校で教鞭を執る旧約学者。英語圏の注解書シリーズで最も親しまれているWBC(Word Biblical Commentary)のホセア書〜ヨナ書注解の執筆者として知られています。原著の初版は1980年ですから、今から三七年前。以来、版を重ね、2013年には第4版となりました。現在、米国の神学校で最もよく使用される旧約釈義の教科書の一つです。
本書は4章構成で、第1章「釈義の全過程についての手引き」、第2章「釈義と原典本文」、第3章「説教のための釈義の簡潔な手引き」、第4章「釈義の参考書」というコンパクトな内容です。第1章は、テクスト、翻訳、文法的情報、語彙的情報、様式、構造、歴史的文脈、文学的文脈、聖書の文脈、神学、適用、二次文献という順序で書かれ、釈義の全過程について総括的なガイドラインが提示されます。第2章は、第1章のガイドラインに基づくヘブライ語原典からの具体的、実際的な釈義の手引きです。第3章は、説教を作成するための実用的な釈義の手引きで、第1章と2章の釈義の手順を説教作成を目的とした釈義に翻案したものです。おしまいの第4章は、旧約釈義で必要とされる文献案内となっています。
本書の最大の特徴は、第3章の表題が示すとおり、説教準備を念頭に置いた具体的な釈義の手順を提示していることです。しかも、なんと5時間で釈義を終えられるように解説されています。これは、本書を典型とする米国型の旧約釈義は聖書学的な知見に立って解釈するだけではなく、あくまで牧師の説教作成の準備を中心に置いているということでしょう。先ほど紹介したドイツ語圏の旧約釈義の教科書、バルト/シュテック『旧約聖書釈義入門』と比べてみると、その違いがよくわかります。本書は日本の牧師たちに歓迎されるでしょう。第4章の詳細な文献案内も非常に役に立ちます。
本書の価値は、ヘブライ語原典からどのように釈義をするか、その手順を分かりやすく解説した第2章と文献案内の第4章にあります。今、神学教育の現場では、旧約原典からの釈義の手順を説明するのに教師たちは苦労します。それだけに、本書は今後、旧約釈義の教科書のスタンダードになるに違いありません。ただ、問題も少々見えてきます。本書は釈義の仕方について分かりやすく説明しますが、釈義の本質や意義については素通りし、また伝承史や編集史という解釈の方法論についてほとんど扱いません。テクストを聖書学的に深く掘り下げて解釈する面白さより、説教準備の方に傾いています。そういう意味では、本書を補う参考書がどうしても必要になります。
山吉氏の翻訳は直訳調で、正確に訳されています。第4章では、原著の外国語文献に加えて、日本語で読める文献も紹介されており、本書はそれだけでも十分利用価値のある旧約釈義入門書です。蛇足ですが、BHSの手引きであるWonnebergerの著作については松田伊作氏の翻訳がありますし、またAharoni編のCarta Bible Atlasの翻訳もありますので、再版の際にはぜひ書き加えていただきたいと思います。
旧約原典から説教を準備する牧師や神学生の皆さんには必読の書です。ぜひお読みください。
(おとも・さとし=東京神学大学教授、日本基督教団中村町教会牧師)
『本のひろば』(2017年11月号)より