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内容詳細
聖夜に贈る奇跡のエピソード!
1818年、オーストリアの小村で、若いカトリック司祭と無名の音楽教師が作った賛美歌は、やがて世界で最も有名なクリスマスソングになった――。聖夜を彩る名曲の生い立ち、歌詞に秘められたメッセージなど、人に話したくなるエピソード満載の賛美歌エッセイ集。
〈目次より〉
1「もろびとこぞりて」
2「きよしこの夜」
3「鳥の歌」とパブロ・カザルス
4「ああベツレヘムよ」
5「あめにはさかえ」
6「くしき星よ、やみの夜に」
7「朝日は昇りて」「羊は眠れり」
8ヘンデルの「メサイア」
書評
神への賛美と深い祈りの結晶
小友 聡
大塚野百合先生の『「きよしこの夜」ものがたり』が刊行されました。クリスマスシーズンを迎える今、グッドタイミングです。プレゼント用(?)にクランツをあしらった表紙が素敵で、思わず手に取って読んでみたくなる本です。
著者大塚野百合先生は、長く恵泉女学園大学で教鞭を執った著名な英文学者。しかし、私たちには英文学者というよりも讃美歌の名解説者として、あるいはまたヘンリー・ナウエンの紹介者としておなじみです。大塚先生の著作はこの一〇年でも一〇冊を超えるでしょう。その先生の最新の著作が本書。クリスマスの賛美歌にまつわるエピソードが満載され、読者の知的興奮を誘う実に面白い本です。評者は賛美歌についてまったくの素人ですが、大塚先生のご著書を愛読してきた一人として本書を紹介いたします。
本書は八つの章から成る賛美歌エッセイです。「もろびとこぞりて」(1章)、「きよしこの夜」(2章)、「鳥の歌」とパブロ・カザルス(3章)、「ああベツレヘムよ」(4章)、「あめにはさかえ」(5章)、「くしき星よ、やみの夜に」(6章)、「朝日は昇りて」「羊は眠れり」(7章)、ヘンデルの「メサイア」(8章)。
いくつか紹介しましょう。「もろびとこぞりて」や「きよしこの夜」などおなじみのクリスマス賛美歌には、それぞれ誕生にまつわるドラマチックなエピソードがあります。それは皆さんにぜひ読んでいただくとして、評者が心惹かれたのは「鳥の歌」とパブロ・カザルス。大塚先生はこの「鳥の歌」というスペイン・カタロニア地方に由来するクリスマスの曲を印象深く紹介しています。新聖歌94番にも載っているこの賛美歌は哀調を帯びた、静かな美しい曲です。クリスマスの喜びとは対極にある哀しい調べは、幼子イエスの誕生が十字架につけられるための誕生であったことを告げます。皆さんも、バッハのクリスマスオラトリオ第五曲のコラールが受難の讃美歌136番「血しおしたたる」のメロディーで歌われることをご存じでしょう。クリスマスという人類にとって最も喜ばしい出来事が、「鳥の歌」では十字架の苦しみと結びつけられて奏でられるのです。カタロニア出身のチェロの巨匠、パブロ・カザルスが一九六一年にホワイトハウスで演奏した「鳥の歌」を評者もCDで聴きました。世界が破滅の危機にあった時代にケネディ大統領の前でカザルスがこの故郷の賛美歌を演奏し、祈りを込めて平和を訴えたことに心が揺さぶられました。これぞクリスマスを賛美する最も真実な賛美歌、としみじみ思いました。
クリスマスの賛美歌に因んでヘンデルのメサイアも紹介されています。ヘンデルが作曲したこのメサイアの台本は、脳出血で倒れた彼を励まし、立ち直りを願って書かれたものでした。体の機能を失い絶望していたヘンデルがその台本を読み、感動で涙しながら渾身の力で書き上げたオラトリオ「メサイア」。日本ではクリスマスに演奏されますが、ヨーロッパではイースターに演奏されます。聴衆に深い感動を与え、救い主キリストの御業を讃えるこの曲は、作曲者ヘンデル自身がキリストによって癒され見事に立ち直った証しの作品だったのです。
もう一つ、チャールズ・ウェスレー作詞の「あめにはさかえ」もクリスマス賛美歌の名曲です。彼はメソジスト運動を興したジョン・ウェスレーの弟。その兄弟の母親スザンナのことは本書と同時期に大塚先生が出版した『スザンナ・ウェスレーものがたり』(教文館)に詳述されています。こちらもどうぞお読みください。
本書はクリスマス賛美歌の紹介だけに留まらず、日本語訳では伝わらない原語の息吹をも読者に教えてくれます。これは賛美歌を慕う教会外の人たちにも呼びかけ、教会に招いてくれる本です。賛美歌は礼拝ではしばしば説教以上に「福音のロゴス」として会衆に語り掛ける力を持っています。クリスマスの賛美歌は福音を伝えるメッセージであることを評者は教わりました。牧師や神学生にもぜひ読んでいただきたい良書です。
(おとも・さとし=東京神学大学教授、日本基督教団中村町教会牧師)
『本のひろば』(2016年1月号)より