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内容詳細

イラストでよむ神学入門シリーズ
ヨーロッパの近代化の出発点となった「宗教改革」。教会内にとどまらず、各地の政治・経済・社会に広く影響を与えた運動の全体像を描き出し、現代的意義を問う。

《目次より》
第1章 宗教改革に先立つ時代
第2章 マルティン・ルターとローマからの訣別
第3章 言葉と礼典の改革
第4章 分裂の始まり
第5章 聖餐論争とツヴィングリ主義の拡散
第6章 カトリック改革、または対抗宗教改革
第7章 帝国の逆襲
第8章 ジャン・カルヴァン――その生涯
第9章 「もっとも完全なキリストの学び舎」
第10章 スペインとオランダ反乱
第11章 イングランドとスコットランドの宗教改革
第12章 フランスの宗教改革
第13章 三十年戦争と「宗教改革」時代の終焉

《著者紹介》
G. S. サンシャイン(G. S. Sunshine)
ミシガン州立大学で学び、イリノイ州 のトリニティー福音神学校で神学修士号を取得。現在、セントラル・コネチカット州立大学教授。著書にPortals: Entering Your Neighbor’s World (Newington, Connecticut: Every Square Inch Publishers, 2012)ほか多数。

《訳者紹介》
出村彰(でむら・あきら)
東北学院大学文学部、東京神学大学卒業。同大学院修了。 神学博士。現在、東北学院大学名誉教授。著書に『スイス宗教改革史研究』『総説 キリスト教史1、2』『出村彰宗教改革論集』(1、2)ほか多数。

出村伸(でむら・しん)
東北大学文学部卒業、同大学院博士後期課程単位取得中退。 テュービンゲン大学に留学。現在、東北学院大学非常勤講師。

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書評

歴史的手法で、今日的在り方を模索する

吉田 隆

 おなじみの「イラストで読む神学入門シリーズ」の最新刊。ところが、このたびは異色の一冊です。

 著者自らがわざわざ「日本語版への序文」の中で「本書のアプローチは、通常の教会史家とはかなり異なっております」と断わっているとおり、「誰か特定の神学思想家というよりは、一連の歴史的出来事の記述であり、神学的視点からというよりは、歴史的手法に依拠」するアプローチだからです。そのため"神学入門"としては物足りなさを感じる方も少なくないと思いますが、「はじめて」学ぶ人にも「はじめて」ではない人にも『はじめての宗教改革』像を提示してみせる意欲作です。

 "長い一五世紀"という言い方があります。人によって使い方も長さの期間もまちまちですが、一六世紀という時代が一五世紀の延長であるという認識では一致しています。本書もまた、一五世紀中葉から一七世紀中葉(より正確には一六四八年のヴェストファーレン講和条約)に至る二百年間の"宗教"を巡るヨーロッパ社会の地殻変動の中に、その再形成(Re-formation)を描き出しています。ルター・ツヴィングリ・聖餐論争と来れば次はカルヴァンかと思いきや、一転、カトリック改革やシュマルカルデン戦争とアウグスブルク宗教和議へと話は変わり、そうして初めてカルヴァンを登場させるという章立てだけでも十分認識を改めさせられます。

 「剝製か燻製でしかなかったカルヴァンを、その時代と場所に、まるで"活け造り"のように生まれ変わらせた」と評される(訳者あとがき)ロバート・M・キングドン教授の下で学ばれた著者の歴史叙述方法もまた、小さな周辺的事実を具体的に描き込むことによって既知の事実や人物をより立体的に浮き彫りにするという手法です。

 バーゼルの三大改革者、エコランパーディウス・カピート・ブツァーのチームワークの要に一人の女性の存在があったとか、ツヴィングリの後継者ブリンガーは娘婿であったとか、ルターやカルヴァンの結婚事情の詳細といった興味津々の情報から、なぜツヴィングリ主義はスイス諸都市に拡がったのか、なぜ聖職者ツヴィングリは武装していたのか、なぜ法学を志したカルヴァンがギリシャ語を習得できたのか、なぜカルヴァンの処女作がセネカの『寛容論』注解だったのか、なぜサクラメンタリアン(キリストの血と身体の実在を否定する立場)はフランスの権力構造において危険視されたか、等々の歴史の読み解き。そして、カルヴァンのジュネーヴは「神政政治」であるとか、カルヴァン神学の中心は予定論であるとか、エリザベス治世下のピューリタンは「宗教的偏屈者」であるといった誤解の修正。加えて、ジュネーヴ長老会記録に基づく具体的な"教会訓練"場面の再現や、ツヴィングリとカルヴァンの聖餐理解についての新しい知見の数々など、読みどころ満載です!

 このシリーズの特徴であるイラストも(白髭の神様はともかく)こと宗教改革に関しては効果的です。なぜなら、一六世紀そのものが文章(印刷本)と風刺画(カリカチュア)による宣伝合戦の時代だったのですから。

 が、この時代が単なる宣伝合戦で済めばよかったのにと思うほど、"宗教"を盾に血で血を洗う戦いと争いの時代であったこともつくづく思い知らされます。カルヴァンはかつてプロテスタント諸教会の分裂状態を"分断されて血を流して倒れているキリストの体"と表現したことがあります。歴史を学ぶことの意義は、そのような過ちの原因を突き止め、偏見から解放されて、健全な相互理解に基づく新たな今日的在り方を模索することにこそあると言えましょう。著者もまたそのような姿勢で記述していることは、各章末尾の「討論のための設問」からも伺えます。

 今回の翻訳は、出村彰・伸両氏の共同作業。父子による厳密かつ軽妙な翻訳、とりわけイラストの一言の捻りの効いた訳文は、それだけでも十分楽しめる魅力を本書に与えています。

(よしだ・たかし=神戸改革派神学校校長)

『本のひろば』(2016年2月号)より