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内容詳細

多彩なルイス思想の全貌

不朽の名作『ナルニア国物語』の作者、C. S. ルイス。彼の壮大な物語世界の内奥には、どのような思想が潜んでいるのか? 神の再発見、トールキンとの友情、妻を得た喜びと死との対峙……。現代を代表する神学者が克明に描きだす、深い思索と信仰に貫かれた生涯。

 

目 次

【第1部 序  幕】

第1章 ダウン郡のなだらかな山並み

第2章 醜い国イギリス──就学時代

第3章 「フランスの広大な原野」──戦争

 

 

【第2部 オクスフォード大学】

第4章 数々の欺瞞、多くの発見──オクスフォード大学特別研究員の誕生

第5章 モードリン学寮特別研究員、家族、そして友情──モードリン学寮における出発

第6章 最も不本意な改宗者──単なるキリスト者の誕生

第7章 文学者──文学研究と文学評論

第8章 全国から絶賛を浴びる──戦時下のキリスト教護教家

第9章 国際的な名声──単なるキリスト者

第10章 敬われない預言者──戦後の混乱、諸問題

 

【第3部 ナルニア国】

第11章 現実を再構成する──ナルニア国創造

第12章 ナルニア国──想像された世界を探索する

 

【第4部 ケンブリッジ大学】

第13章 ケンブリッジ大学に移籍──モードリン学寮

第14章 死別、病気、死──最晩年

 

【第5部 死の後】

第15章 ルイス現象

 

C・S・ルイス略年譜
索引 参考文献

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書評

多彩な思想を纏め上げた、著者渾身の評伝

本多峰子

 現在もっとも活躍している英国神学者のひとり、アリスター・マクグラスによるC・S・ルイスの伝記が出版されたと聞いたのは、二〇一三年のことである。それがこの度、佐柳文男氏の読みやすい日本語で教文館から出版された。

 C・S・ルイスは、日本でもよく知られた『ナルニア国年代記』の作者であるが、想像力にあふれた作家であるのみならず、オクスフォード大学で長年教鞭をとり、晩年はケンブリッジ大学の教授となった中世及びルネッサンス英文学の権威である。また、第二次世界大戦中には、BBC放送でキリスト教の護教論を、広い層の聴衆に向けて放送講話として発信している。彼の著書は今でも世界中で広く読まれ、多くの人をキリスト教に改宗させている。

 マクグラスは、その多面的なルイスを、今まで書かれたルイスの伝記にはあまり見られなかった彼の私生活についての資料まで丁寧に集めて、温かい目で語っている。彼がどれほどルイスの世界に惹かれているかを感じさせる筆致である。

 マクグラスの神学書を読むと常に感じるのは、著者の神学的な学識と穏健かつ堅実な信仰上の態度、そして、文学的教養と感性である。そのすべてが本書にも表れている。

 これはまさに、マクグラスにしか書けないルイスの伝記である。マクグラスは、ルイスと同じく、アイルランドのベルファスト生まれで、オクスフォード大学に学び、オクスフォード大学で教鞭をとった。その点で彼は、ルイスが学び生きた世界を直接に知っている貴重な人たちの一人である。また、神学者としての彼は、ルイスの護教論や文学に表れたキリスト教思想が、必ずしも教義学的に学者が考えるキリスト論や救済論をふまえたものではないことを明確に認識している。しかし、彼はそこで止まらず、ルイスの思想を理解するには、英文学の歴史を調べなければならない、と指摘し、ルイスの思想の真価を読者に示すことができるほどに、英文学に対する造詣も深いのである。

 マクグラスは、中世の宗教詩や宗教劇、ミルトンの『失楽園』などをふまえてルイスの文学や護教的作品を解説している。特に、『ナルニア国年代記』についての章は、伝記の域を超えて、内容や構成にいたるまで、深い洞察に満ちた分析と解説がなされている。それは、ナルニアを生み出したルイスへの多様な影響──過去の英文学、友人関係、ルイス自身のキリスト教護教家としての動機など──をふまえているのみではなく、英文学の分野でルイスについて書かれた論文も広く読破した上で書かれており、研究者としてのマクグラスの徹底した誠実さと熱意をうかがわせる。しかし、それだけではなく、努力だけでは得られない文学的感性と想像力がマクグラスにはあり、それによって彼は、ルイスの文学の中にきらきらときらめく宝石のようなものを感じ取り、それを伝えてくれるのである。

 一体マクグラスほどの忙しい人がいつ、ルイスの著書(四十冊以上ある!)を、学術的なものから護教的なもの、童話や小説までこれほど深く読み、それらについての研究書やルイスについての伝記的資料を収集し、読み、これだけの伝記に纏め上げることができたのか、まさに驚きである。

 マクグラスの著書はどれもそうだが、明確で分かりやすい語り口で、本文だけで四五〇頁近くある(+年譜の力作である!)のに一気に読めてしまう。この筆力は訳者の力量もあろうが、圧巻である。

 人間としてのルイス自身についてだけではなく、ルイスの文学について知り、理解したい人にとって、そしてマクグラスの人となりに興味のある人にとっても本書は必読書であろう。

(ほんだ・みねこ=二松学舎大学教授、日本基督教団正教師)

『本のひろば』(2015年10月号)より