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内容詳細
ひとりの人の祈りと小さな行動が、不安や絶望の中にある人の心に起こした小さな奇跡。1940年代末にシカゴ新聞で人気を博した連載から36話を選んで紹介する、日々の暮らしを明るくするヒントがつまった心温まる実話集。
読者からの長年のラブコールにこたえて、『現代のたとえ話』続編の登場です!
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〈本文より〉
奇跡とは、何でしょうか。私たちが使う辞書には「何かすばらしい、驚くべき事柄とか事実、あるいは出来事」と定義しています。この意味に従うなら、確かにこれは奇跡であり、奇跡というのに相応しいと言えるでしょう。しかし、正しい人の信仰と信仰への執着と、神への愛と人への愛の事件であるとも言えるでしょう。
「中止になった葬儀」より
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〈著者・訳者紹介〉
◆著者:F.アワズラー(Oursler, Charles Fulton, 1893-1952)
アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア生まれの新聞記者・推理小説家・クリスチャン作家。
著書『世界最大の物語』(1949年、邦題『偉大な生涯の物語(イエス・キリスト伝)』鮎川信夫訳、荒地出版社、1965年)ほか多数。
◆訳者:鳥羽徳子(とば・とくこ)
1933年青森県生まれ。日本基督教団正教師。国立国会図書館学術文献朗読員(1980‐2000年)。ストーリーテラーとして図書館・小学校で奉仕(1980‐2009年)。神奈川教区巡回教師として1992年より奉仕。現在に至る。
訳書 W. バークレー「聖書注解シリーズ」『使徒行伝』(1968年)、『ガラテヤ・エペソ』(1970年)、『ピリピ・コロサイ・テサロニケ』(1969年、すべてヨルダン社)、F. アワズラー『現代のたとえ話』(共訳、教文館、1974年)、A. M. ハンター『パウロによる福音書』(共訳、教文館、1983年)。
書評
苦難に打ち勝った人々の話
大塚野百合
本書の著者チャールズ・フルトン・アワズラー(一八九三―一九五二)は米国のジャーナリスト、作家であり、彼の代表作『世界最大の物語』(一九四九)は映画化され『偉大な生涯の物語(イエス・キリスト伝)』として日本でも上映されました。それを劇場で見たときの感動を今でも鮮明に覚えています。彼は一九五〇年に『現代のたとえ話』を刊行しました。それは「シカゴ新聞」に連載した一二八のエピソードを集めたものでした。そのなかの三四話を鳥羽徳子さんが訳し、『現代のたとえ話』という題で一九七四年に教文館から刊行されました。
それから四〇年経った二〇一四年に、『現代のたとえ話』の原書から三六話を選んで鳥羽さんが訳したのが本書『二十世紀からの贈り物──現代のたとえ話2』です。一九四〇年代の米国人に向けて書かれた記事が現在の日本人の心にも訴えるメッセージを持っているという確信から生まれたのが本書です。
それでは著者のアワズラーという人は信仰の面でどのような遍歴をした人なのでしょうか。彼は米国メリーランド州ボルチモアの貧しい労働者の息子でした。両親は熱心なバプテスト派の信者でしたが、彼は一五歳で信仰を捨てたのです。ところで彼は色々な才能に恵まれていたので、雑誌の編集者として活躍しながら小説、ドラマを書き、推理小説家としても頭角を現していました。
ところが彼が五〇歳になった一九四三年に、彼の人生に大きな変化が起こりました。彼はカトリックに改宗し、妻も子供たちも信者になったのです。ナチズムと共産主義が勢いを増しているのを憂慮した彼は、どうすればよいかといろいろ悩んでいるうちに、自分の魂のふるさとであるキリスト教に戻ったのです。一九四九年にイエス伝である『世界最大の物語』を刊行したのは、彼がイエスによる救いを体験した喜びの結果でした。それを書いているころ、彼は『現代のたとえ話』を新聞に連載していました。多くの人々が人生の様々な苦難で悩んでいるのを知って、苦難に打ち勝った人々の話を新聞に書いて彼らを励まそうと願ったからでしょう。
苦しみに打ち勝つには、自己中心の生き方を止めて、他人を助ける生き方をすべきであり、また神に頼って真剣に祈ることが必要であると彼は考えており、そのような実例を彼は「シカゴ新聞」に連載し、多くの人々に生きる勇気を与えたのでした。
このように見てきますと、三五年近く神とイエスに反抗して、神のない世界に生きる苦しみを味わった著者アワズラーが、神を信じ、苦しいときに祈ることが出来た時にどのように大きな喜びと幸せを感じたかを私たちは想像することができます。
第11話「失われたチャンス」はマージョリーという女性が映画のスターになることを熱望しており、主役になるチャンスが訪れたのですが、彼女は結核に罹っていたので、チャンスは失われました。その彼女の心の支えになったのは讃美歌三二〇番「主よみもとに近づかん」の歌詞を書いたサラ・フラワー・アダムズの話です。彼女は英国の女優で「マクベス夫人」を演じて好評を博したのですが、結核で舞台から降りたのです。
ところで私が一番好きな話は第23話「真夜中の讃美歌」です。英国海軍の若い兵士が結婚式の直後ドイツの空襲で、自分の家とそこにいた妻と自分の家族を失ったのです。それを知った米国の牧師は彼と一緒に讃美歌二八八番の「たえなるみちしるべの」を歌う以外に彼を慰める方法がなかった、という話です。
賛美歌について本を書いている私は、賛美歌がどんなに大きな力を持っているかを再認識しました。
「たとえ話」という題ですが、書かれているのは架空の話ではなく、実在した人物の話であることは嬉しいことです。ぜひあなたが一番好きな話を選んでください。日本にもこのように実例を通してキリスト者の生き方を示す本が書かれることを願っています。
(おおつか・のゆり=恵泉女学園大学名誉教授)
『本のひろば』(2015年3月号)より