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内容詳細

クリスマスの起源と成立事情、サンタクロースの誕生と変遷、
国によってこんなに違う?! クリスマスの祝いかた、
物語・美術・音楽・映画のモチーフとしてのクリスマス……。
多くの図版を交え、13の章と14のコラムで紹介するクリスマスの歴史と世界のクリスマス。
意外な歴史と、〈いま〉を知るともっとこの季節が好きになる!!

✥目次と執筆者✥

第Ⅰ部 クリスマスの起源
第1章 聖書のクリスマス物語 (嶺重 淑)
第2章 古代ギリシア・ローマの宗教とクリスマスの誕生(波部雄一郎)
第3章 サンタクロ―スの起源を求めて(中谷功治)
第4章 教皇レオのクリスマス説教 (土井健司)

 第Ⅱ部 世界と日本のクリスマス
第5章 スイスのクリスマス (A.ルスターホルツ)
第6章 北欧のクリスマス (平林孝裕)
第7章 アメリカのクリスマス (大宮有博)
第8章 中華人民共和国のクリスマス (桐藤 薫)
第9章 日本におけるクリスマスの歴史 (岩野祐介)

第Ⅲ部 クリスマスと文化
第10章 クリスマスと文学 (柴崎 聰)
第11章 クリスマスと美術 (佐藤成美)
第12章 クリスマスと音楽 (小栗 献)
第13章 クリスマスと映画 (打樋啓史)

クリスマス用語集 (波部雄一郎編)

✥Columnコラムと執筆者✥
1 クリスマス物語の闇をつくりだす国家権力 (小西砂千夫)
2 三人の博士(辻 学)
3 イエスはどこで生まれたのか(前川 裕)
4 ルターとクリスマス(小田部進一)
5 スコットランドのクリスマス(長下部穣)
6 スウェーデンのクリスマス(E.M.アンベッケン)
7 スペイン語圏のクリスマス(村上陽子)
8 南アフリカのクリスマス (伊藤寿泰)
9 韓国のクリスマス受容史と今日の状況 (松山健作)
10 日本におけるクリスマスの受容とキリスト教の土着化をめぐって(舟木 讓)
11 文化人類学からみたサンタクロース(山 泰幸)
12 正教会のクリスマス(松島純子)
13 きよしこの夜のミステリー(澤村雅史)
14 いつまでサンタの存在を信じていましたか?(アンケートから)

 

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書評

多彩なテーマで紹介する

八木谷涼子

 「教会でもクリスマスやるんですか? と聞かれました」
 ある牧師さんからそんな話をうかがったのは一九九〇年代のこと。おおかたの日本人にとってのクリスマスは、宗教とは関係がない。電飾の輝くツリーが飾りつけられる時期になると、書店の棚もクリスマスを意識した品揃えとなる。さて、『よくわかるクリスマス』とはいったいどんな本だろうか。

 そう思いつつページをめくると、テーマの多彩さに圧倒された。一三の章でじつに幅広くクリスマスの事象をカバーしている。歴史的観点からクリスマスの起源及び成立事情を語る第I部。中国や韓国を含む世界各国と日本におけるクリスマスの現状を語った第II部。文学、美術、音楽、映画などの文化とクリスマスとの関係を扱った第III部の三部構成。加えて、クリスマスに関するさまざまなトピックを扱った一四本のコラム、巻末には「クリスマス用語集」が収録されている。
 しかも章ごとコラムごとに執筆者が違う。どうやってこれほどのメンバーを集めたのか、編者あとがきを見て納得した。本書の土台は関西学院大学で十数人の教員が交替で行った講義「キリスト教と文化クリスマス──その起源と展開」の授業テキストである。大学教員の執筆だけあって、やや学術的な記述もあり、まったくのキリスト教初心者向けというよりは、歴史書などを読み慣れている人向けという印象を受けた。ほかに気づいたことを箇条書きにしてみよう。

・一般的な索引はないが、巻末の用語集にある程度の索引機能を持たせている
・より深く知りたい人には、各章末尾の参考文献リストが便利
・トリビアが満載で、説教などのネタ本としても使えそう。新しい情報も含まれているので、クリスマス関連本はもう何冊も所持している、という人にも発見があるはず
・書かれている事象の特色が地域性によるのか、あるいは教派的なものか、その区分けが明瞭でない箇所がある。「正教会の降誕祭」というコラムで東方正教会のことを扱っているが、「カトリック」という文言の入った特別な項目はない
・サンタの存在をいつまで信じていたか、大学生に質問したアンケート結果を掲載(彼らにはそんなに昔の話ではない!)

 個人的には、桐藤薫氏による中国の話(第8章)が目新しかった。中国では二〇〇八年の北京オリンピックを境にクリスマスの認知度が急激に高まり、大勢の非信者が教会に足を運ぶようになったことで「クリスマスとは建国以来の〔国家による〕宗教管理の前提を揺るがす出来事」になったという。また、「聖ニコラオスの島」発掘の話には想像力をかきたてられた(第3章)。スイス版のサンタクロースが家庭訪問する際の「メモ」や料金表、スイスやドイツなどの地域で一月六日にツリーの火災が原因の死者が出ること(第5章)。由木康による「きよしこの夜」の訳詞の変更問題などが興味深い(コラム13)。

 「本来の」あるいは「本当の」クリスマスという言い方がある。その背後には世俗的・商業主義的クリスマスを「偽物」とみる評価があるように思う。だが本書の基調は違う。本物とはなにかを意識しつつ、日本では「商業的なイベントの中にむしろ、本来のクリスマスの意味を伝える工夫がなされ、クリスマスが人々の中に定着している現実」(コラム10)を認める記述もある。わたしにはそこが新鮮だった。
 いわゆるキリスト教国においても、クリスマスはもう教会だけ、信仰者だけのものではなくなっている。四世紀に日が定められ、長い年月をかけて土着の文化と融合し、地域的特質が付加されながら、多彩な手法で祝われる文化的な休日。クリスマスがそんな存在であることがよくわかる一冊だ。

(やぎたに・りょうこ=フリーランスライター)

『本のひろば』(2015年1月号)より