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内容詳細

新たなユダヤ文化の創造

ワイマール期(1918-33年)のユダヤ人は、自己の集団性を意識しつつドイツ社会への同化を志向する、複雑で多層的な世界を生きていた。その苦闘の中で開花したユダヤ・ルネサンスとはどのようなものであったのか? 伝統的ユダヤ文化を近代の文脈で復興させ、カフカ、ショレム、ブーバー、ローゼンツヴァイクら数々の思想家・芸術家を輩出した運動の全容を詳述した画期的な書!

 

【目次】

第Ⅰ部 共同体への希求

第1章 ワイマール以前の起源
第2章 ゲマインシャフトとゲマインデ──ユダヤ人共同体の思想的、制度的変容

第Ⅱ部 知識の伝達

第3章 新しい学習──レールハウス(教えの家)運動
第4章 総合的な学問を目指して──近代ユダヤ学の大衆化

第Ⅲ部 本物を求めて

第5章 「本物のユダヤ人」の創造──ドイツ系ユダヤ人の文学
第6章 本物と近代主義の結合──音楽と視覚芸術
第7章 本物再考──ユダヤ語でユダヤ文化を

 

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書評

素晴らしい本に出会った。ぜひ、ご覧になっていただきたい。
『ワイマール時代のユダヤ文化ルネサンス』 M. ブレンナー著、上田和夫訳

"The Renaissance of Jewish Culture in Weimar Germany" by Michael Brenner. 出版社: 教文館  価格:4212円(税込) 判型:A5判/ 400 頁

ワイマール期(1918-33年)のユダヤ人は、ドイツ社会への自由な同化を志向するが、結局、自己のユダヤ性の意識に回帰し、自分達の内奥に脈打つ本物のユダヤ性を摑もうとして、苦悩しつつ、哲学、思想、芸術、ヘブライ語、イディシュ語などの世界で独自の発展を遂げた。本書は、複雑で多層的な世界のその全貌を余す無く網羅し、しかも冷徹なまでに彼らの内面を再現している。著者ブレンナーの鋭い歴史感覚と博覧強記、これは従来のユダヤ人の歴史にはない新しい視点である。それに訳者・上田和夫氏が渾身の力をふりしぼって綴った日本語の感動溢れる訳文。ユダヤ人に関心がある人ならば、自前で購入して読むべき必読書である。

手島佑郎氏(ギルボア研究所代表、ヘブライ学博士)のフェイス・ブックより

 

 

現代ユダヤ文化理解のための必読書

手島佑郎

 本書の著者ミヒャエル(英語読み・マイケル)・ブレンナーはコロンビア大学で博士号を取得し、ミュンヘン大学でユダヤ史とユダヤ文化を教えている。ワシントンのアメリカ大学ではイスラエル学講座を担当し、レオ・ベック研究所の国際部門担当副所長、ヘブライ大学のフランツ・ローゼンツヴァイク・センター長を兼務するなど、多岐にわたって活躍している。
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 著者は、広範囲にわたるワイマール時代のドイツ・ユダヤ人の活動とその内面的問題をみごとに一冊の本にまとめている。
 周知のように、ドイツ系ユダヤ人の多くは、すでに一九世紀中期には「ゲットーから出て」、ユダヤ教の伝統的宗教的束縛を離れ、近代的な自由な市民として歩みはじめていた。法的には彼らは平等な市民になっていたが、相変わらず政府役人や軍隊、学問の世界で要職から締め出されていた。さりとて、「ユダヤ人であることをおいそれと辞めるわけにはいかない。自己を否定したところで何の解決にもならない」。だからこそ、ワイマール時代のユダヤ人は本物のユダヤの文脈を求めて文学、学術、芸術、工芸など全ての分野で、ユダヤ性を表現することに努めた。ユダヤ人がユダヤ性を追求する。こういうことは、後にも先にもワイマールのユダヤ人にしかなかった現象である。
 本書の第I部で著者は、「ドイツ系ユダヤ人の中にある共同体への欲求」に関して、その自己定義が「信仰の共同体から運命と出自を共有する共同体」へ移行したと意識レベルの変化を指摘している。さらにドイツ・ユダヤ人共同体にはケヒラー[シナゴーグを形成する会衆]から発達した社会福祉、文化、教育の分野での地域共同体(ゲマインデ)としての活動がある。
 第II部では、ローゼンツヴァイク、アハド・ハアム、カフカ、ブーバー、ショレム、ドゥブノブ、ビアリック、アグノン、ソンシーノ協会、YIVO、ショッケンなど、現代のユダヤ学専攻の学生たちに馴染みある人物名や団体名が続出している。そこには、近代化=ワイマール時代という大渦の中で、いったん伝統的ユダヤ教と訣別したものの、あらためて自分たち自身に本物のユダヤ性を回復しようとして探索していた彼らの姿が生き生きと紹介されている。
 彼らの中からイディシュ語文学やイディシュ語劇団が生まれた。彼らはヘブライ語の普及にもつとめ、ヘブライ語新聞も発行した。その実験が、後にシオニストたちのパレスチナ移住と共に、父祖の地でのヘブライ語国語化につながったのである。
 ユダヤ人にとって最大の行事である「過越し、Passover」の宵に家族で読む伝承集「ハガダー」に美しい挿絵をほどこしたシュタインハルト版や、オッフェンバッハ版は、ユダヤ画家たちの創作意欲を刺激した。愛書家の好みに合致する印刷用ヘブライ文字書体もドイツで開発された。シェーンベルクやハインリッヒ・シャリート等は、新しいユダヤ音楽の領域を開拓した。
 ドイツで計画され、途中で挫折した百科事典の企画は、海を渡ったアメリカで一九〇一年から一九〇五年にかけて一二巻本 Jewish Encyclopedia として出版された。
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 本書は、シオニズムの背景や現代ユダヤ文化を理解しようとする人にとっては、幾度も読み返すべき必読書である。
 最後に、三二〇ページに及ぶ原書を読みやすい日本語で丁寧に翻訳した訳者・上田和夫氏の努力と献身に心からの敬意を表したい。なお、膨大な人名やヘブライ語用語に関しては、今後、関係者の間で、そのカナ表記の標準化が図られる事を望みたい。
 ヘブライ語名のカナ表記に関しては、訳者によってそれぞれの見解もあろう。だが、人名に限らず外来語のカナ表記の場合、最近は、概して長音記号「ー」や促音表記のための「ッ」などを使用しない傾向にある。慣用的表記が定着していない人名などの場合も、できるだけ簡素な表記が望ましいのではなかろうか。

(てしま・ゆうろう=ギルボア研究所代表)

『本のひろば』(2015年3月号)より