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内容詳細

21世紀を導く思想はどこにあるのか?

日本人の深奥にある原初的宗教意識とは何か? グローバル化する世界の中で「和魂洋才」の発想は通用するのか? 比較宗教学や宗教社会学を援用しながら日本人の宗教意識を浮き上がらせるのと同時に、真の「啓示」に基づいた「日本の神学」の構築を目指した意欲的論考。 「日本の場合、この文化摩擦は最終的に「和魂漢才」方式で受容され、近代にはそれが「和魂洋才」として拡大されました。日本の近代国家の形成原理と教育目標はこの「和魂洋才」であり、その結果が日本帝国主義です。したがって日本の敗戦は、「和魂洋才」方式の崩壊を意味します。しかし、日本はまだ、この「和魂洋才」の発想を、つまり「両極性(polarity)」の問題を真に克服してはおらず、主体性の弱さという問題をかかえているのです」。(本文より)   【目次】 第1章 日本人の無宗教 第2章 日本人の選択基準 第3章 日本人の無意識 第4章 日本的キリスト教 第5章 日本の神学

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書評

日本人の原初的宗教意識とは何か?

井ノ川 勝

 評者である私は神学校を卒業し、伊勢神宮外宮の前にある日本基督教団山田教会で三〇年間、伝道者として伝道してきました。日本人の魂の故郷と言われる伊勢神宮の町に生きる人々の心に響く福音の言葉を求め格闘してきました。伝道するためには、伝道の対象である日本人の深奥にある原初的宗教意識を知る必要があります。今年四月より真宗王国北陸金沢に遣わされ、そこで日本で伝道する伝道者にとって必読書とも言える意欲作である本書に出会いました。
 著者は東北学院大学教授として、日々大学生と向き合い、その心に触れ、御言葉を語り続けています。目の前の若者たちが島国日本の中で、仲間内にだけ通じる言葉で内向きとなり、「愛国心」にからめとられ、「世界史」を無視する姿に接してきました。また、キリスト教教育の現場にも、国の道徳教育導入を巡り、再び「和魂洋才」の思想が持ち込まれようとしています。「和魂洋才」とは何であり、「和魂洋才」の発想それ自体に致命的欠陥があるとしたら、日本そのものを滅ぼすかもしれない。このような危機意識から生まれたのが本書です。
 本書は「日本人の無宗教」「日本人の選択基準」「日本人の無意識」「日本的キリスト教」「日本の神学」の五つの章より構成されています。それぞれの主題について論じた代表的な書物を複数紹介し、その要点を的確に論じ、最後に著者の見解を語るという展開をしています。
 第一章「日本人の無宗教」では、阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』、島田裕巳『無宗教こそ日本人の宗教である』、山折哲雄『日本の「宗教」はどこへいくのか』を紹介し、「無宗教」といわれる日本人の宗教心の起源を日本宗教史全般の流れから探り、神仏習合のみならず神仏儒合一という独特な宗教形態があり、近世に入ると政治が宗教をコントロールする世俗化の流れが出来上がり、近代に入ると新たな祭政一致の宗教、国家神道が作り出され、戦後、既存の宗教に対する不信感が強まり、「無宗教」と言いつつスピリチュアリズム的感覚に生きる人々が多くなったことを論じます。第二章「日本人の選択基準」では、中村元『日本人の思惟方法』、山本七平『受容と排除の軌跡』を紹介し、仏教、キリスト教という外来の思想を受容する際、民族宗教である神道がどのような影響を受け、また逆にどのような影響を及ぼしたのか。その際、日本人の選択基準とは「シャーマニズム的思惟方法」「アニミズム的に規定された共同体意識」であると論じます。第三章「日本人の無意識」では、土居健郎『「甘え」の構造』『信仰と「甘え」』、河合隼雄『母性社会日本の病理』『中空構造日本の深層』を紹介し、深層心理学の視点から日本人の無意識にある「甘え」「中空均衡構造」を追求します。中心となる唯一の権力者は必ずしも力を持つことを必要とせず、うまく中心的な位置を占めることにより、全体のバランスを保つ構造です。その最たるものが天皇制です。第四章「日本的キリスト教」では、マーク・R・マリンズ『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』、原誠『国家を超えられなかった教会──15年戦争下の日本プロテスタント教会』を紹介し、明治以降キリスト教受容において、日本の重層的信仰形態や国家形態に合わせて、より日本的なものにしようとし、「日本的キリスト教」となっていった日本プロテスタント教会の問題点を論じます。第五章「日本の神学」では、古屋安雄・大木英夫『日本の神学』を紹介し、日本を神学の視点から考察する「日本の神学」の必要性、「和魂洋才」に代わる「宇魂和才」というエキュメニカル・スピリットの必要性を論じます。『日本の神学』が出版されてから二五年、残念ながらその後「日本の神学」を展開することは十分になされてきませんでした。本著は改めてその問いかけに真摯に応えて行こうと促しています。この課題にどう応えていくのか、それが日本で伝道する私たち伝道者の使命です。

(いのかわ・まさる=日本基督教団金沢教会牧師)

『本のひろば』(2015年1月号)より