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内容詳細

キリスト教神学は、いかなる意味において学問と言えるのか?

その真理主張には普遍妥当性があるのか? それは検証可能か?

学問論をめぐる今日の論争を整理しながら、キリスト教神学の学問的妥当性とその根拠を明らかにし、神学の新しい全体構想を打ち出した論争の書。

〈目次〉

まえがき/序論 学問理論と神学

第1部 諸学問の統一性と多様性の緊張における神学

第1章 実証主義から批判的合理主義へ/第2章 精神科学の自然科学からの解放/第3章 意味理解の方法論としての解釈学

第2部 学問としての神学

第4章 神学史における学問としての神学の理解/第5章 神の学問としての神学/第6章 神学の内的区分

〈著者紹介〉

W.パネンベルク(Wolfhart Pannenberg)

1928年生まれ。1953年ハイデルベルク大学で神学博士号取得。ヴッパータール神学校、マインツ大学神学部、ミュンヘン大学福音主義神学部の教授を歴任し、1994年に引退。『キリスト論要綱』『人間学』『組織神学』全3巻などの著作がある。

 

 

 

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書評

大学とは何か――その根拠を問う

佐々木勝彦

 この二十年あまり、大学は、少子化を背景とした「学部・学科再編の嵐」に呑み込まれている。特に私立大学はその生き残りをかけて、次々と新機軸を打ち出している。「人気のない学部・学科は潰れて当然」という空気が支配しており、受験生の目にも、大学は今や「就職予備校」としてしか映っていない。
 毎年、報告を求められる「大学教員業務・活動報告書」には、「学内外の競争資金獲得」の項目があり、この欄を埋めるために、教員は悪戦苦闘を強いられている。経営者も「授業料・運営交付金・経常費補助金」の獲得に日々追われ、公立も私立も、なりふり構わず「弱肉強食」肯定論者になっている。
 この非常事態の中で、 「キリスト教大学の学問体系論」を考えるために、青山学院大学総合研究所は、パウル・ティリッヒ著『諸学の体系』(法政大学出版局)に続いて、ヴォルフハルト・パネンベルク著『学問論と神学』(教文館)を翻訳出版した。「索引」を除くと翻訳で四九三頁もある大著である。
 実学志向の日本の教育機関とそこに働く者にとって、この企画は「机上の空論」としか思えないかもしれない。しかし、教育が、大学が、真理に関わり、歴史の行く末を見通し、歴史に対する人類の責任を語ろうとするかぎり、「学問論」によって鍛えられなければならない。

 『学問論と神学』の第一部は「諸学問の統一性と多様性の緊張における神学」という標題になっている。もともと「神学」の伝統を切り捨てて始まった日本の大学にとって、「神学」は有っても無くてもよいものである。しかし「キリスト教大学」にとって、それは「存在根拠」に関わる領域である。大学が真理を問う場であるかぎり、キリスト教大学は、どうしても諸学問と神学の関係を問わざるをえない。
 この書物が出版されたのは一九七三年である。それは、大学紛争が起こり、それまでの教育制度と研究の在り方が激しく問われた時代であった。この学問論は、大学の再生を願って、現実をトータルかつ根源的に捉え直そうとしており、この現実には、学内外の、これまでのすべての歴史と未来が含まれている。あれから四十年経った今日、その問いとアプローチは、古くなるどころか、ますます現実味を帯びてきている。あらゆる学問が歴史の激変の中で自らの相対性に苦しみ、過去と未来を切り捨てざるをえなくなる中で、著者はあえて現実総体を歴史として捉え、「普遍的歴史」について語る。この壮大な発想に、われわれのグローバリズムはついて行けるだろうか。「終末論的超越論的次元」に触れずに「真理と意味」について語ることはできない、と著者は言う。本当だろうか。われわれの大学論はこの真剣な問いに、何と答えるのだろうか。

 筆者は、もうひとつの理由でこの翻訳出版を喜んでいる。これは、パネンベルク神学を語る上で、欠くべからざる書物だからである。彼の思想の中核には、キリスト教信仰の真理の《統一性》と《普遍性》に対する確信があり、周知の如く、彼の神学は、特に自然科学およびエキュメニズムとの対話において、多大な影響を与えてきた。今日、改めてその意味内容を問う必要がある。
 しかしながら、パネンベルク神学の可能性と限界について論ずるには、まだ足りないものがある。それは、『学問論と神学』と『組織神学』三巻の関係の解明である。今回の翻訳出版をきっかけに、大学の本質論と同時に、これらの議論も盛り上がることを願って止まない。

(ささき・かつひこ=東北学院大学文学部教授)

『本のひろば』(2014年6月号)より