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内容詳細
様々な民族、文化、宗教、地理的条件が共存する〈アジア〉。
この多元的な世界における、福音のインカルチュレーション(文化的受肉)の新たな可能性とは何か。
知られざる歴史に光を当てつつ、人々の生活世界の中から信仰を捉え、今を生きる神学・教会論を模索する。
◆目次と執筆者◆
奪格の神学によるアジアのキリスト教史的な再定位
・・・・・森本あんり(国際基督教大学哲学宗教学デパートメント教授)
今日のアジアにおけるインカルチュレーション――カトリック教会の視点から
・・・・・増田祐志(上智大学教授神学部教授)
ホセ・デ・メサの「積極的評価の解釈学」――文化の再評価とインカルチュレーションの実践
・・・・・古橋昌尚(清泉女学院大学人間学部教授)
報告 モンゴル国のキリスト教の過去と現在
・・・・・バイカル(桜美林大学リベラルアーツ学群准教授)
書評
アジアにキリスト教は根づくのか?
山岡三治
インカルチュレーションの神学の視野
本書は清泉女学院大学人間学部設置一〇周年記念シンポジウムに基づいており、四名の著者がインカルチュレーション(文化的受肉)を扱いながら、キリスト教にとってアジアとは何か、文化とは何か、究極的にはキリスト教の本質とは何かを問うているところが共通していて興味深い。
「奪格」の神学
プロテスタント神学者森本あんり氏の「奪格の神学によるアジアのキリスト教史的な再定位」によれば、七〇年代に論じられ始めたアジア神学にとっては西洋の神学を宣教地の文化的土壌にどう適合させようとするかを研究の対象としていた。ところが現在のアジア神学はアジアを「世界史の舞台に」歴史的に「自己展開したキリスト教の最終到達点」と捉え、このアジア「という起点から」神学を再構築する試みであり、「属格」でなく「奪格」の神学である。ジュン・ユン・リーは陰陽論を用いて三位一体論の再表現を試み、聖霊が全被造物のために苦しむ「慈愛の母」「母神受苦説」を提唱している。北森嘉蔵によれば、ギリシア的な教義に欠けているのは、旧約聖書のエレミヤ書にある神の犠牲的な愛の痛みであり、「神が痛み給う」ことこそが三位一体論の中核なのであって、「父が子を生む」という言葉は「父が子を死なしめる」という「第一次的な言葉」に他ならない。
ただし、忘れてはならないのは、三位一体論は初代のキリスト者たちがナザレのイエスに救いの力が現臨していることを経験し、共同体の信仰体験に合理的な説明を与えようとして定式化されたものでもあることである。
カトリックのインカルチュレーション
「今日のアジアにおけるインカルチュレーション──カトリック教会の視点から」(増田祐志)によれば、教会の歴史はインカルチュレーションの失敗の歴史でもある。ガリレオ裁判であれ、フランス革命であれ、また近代のヨーロッパにおける教会と社会との関係であれ、人々の意識や知的枠組みへの受肉の失敗の典型であった。しかし、第二バチカン公会議とそれ以降ではようやくカトリック教会は自己存在目的を「全世界のため」と位置付け、大々的な現代世界へのインカルチュレーションの試みを踏み出した。アジアの視点に立ち、全世界のキリスト教にも示唆を与える『アジアにおける教会』(ヨハネ・パウロ二世、一九九八年一一月)はその一つの実りである。
負の痕跡から解放するフィリピン神学
「ホセ・デ・メサの『積極的評価の解釈学』──文化の再評価とインカルチュレーションの実践」(古橋昌尚)によれば、ホセ・デ・メサの経験の神学は、第一に「脱痕跡化」(植民者から植えつけられてきた否定的自画像の払拭)であり、たとえば主の復活はイエスの「名誉回復」と捉えられる。第二にフィリピン民衆の「感性」の上に立つことである。たとえば民衆に親しまれている言葉に「こころ」(loob)があり、「みこころが行われますように」は「神の善き心」を我々の心とすること、神は善そのものであることである。日本語でいえば、人々の知性と心情、文化や生活に「しっくりくる」、または「腑に落ちる」ものでなくてはならないということであろうか。
モンゴルのキリスト教とその背景
バイカル氏「報告モンゴル国のキリスト教の過去と現在」によれば、モンゴルではネストリウス派キリスト教が伝来した一一世紀以降、国民の半数がキリスト者だったこともあり、また平和は忍耐強い宗教間対話によってこそできると考えた現代的な首長もいた。一九二四年以降は「宗教はアヘン」という指導思想のもとで苦難の時期もあったが、多くの(女性を含む)プロテスタント医療伝道者らの貢献により、次第にキリスト教が受容されるようになった。現在は外国の文化・宗教がますます浸透してきており、モンゴル人がどういう生き方を選ぶかは今後のインカルチュレーションを考える上でも参考になるであろう。
(やまおか・さんじ=上智大学神学部教授)
『本のひろば』(2014年7月号)より