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内容詳細

「神の民」とはだれか?
旧約時代より「神の民」であったはずのユダヤ人。彼らに福音を拒絶され、異邦人伝道に乗り出した使徒パウロは、同胞の救いについてどのように考えていたのか?
イエスの死と復活を通して、ローマ書に記されたすべての人間に対する神の救いの歴史を説き明かし、人は神の愛にどのように応えて生きたらよいか、それぞれが置かれた場所で信仰生活を深めるための指針を与える。
下巻は、9章~16章にあたる18編のメッセージを収録。

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書評

読む者の心に響く説教

吉岡光人

 説教は、基本的にはその教会の会衆に対する牧会を任されている牧師がするのが普通である。従って説教者が説教を準備する時、その主日の聖書の言葉に密着しつつも、自分が責任を負っている会衆を思い浮かべつつ準備することになる。「自分の羊を知っており、羊もわたしを知っている」という関係の中で、神の言葉が取り次がれるのである。従って、その日、その礼拝で語られた説教こそが説教者が存在をかけたものであって、後に文字になって残された説教集は、毎週、命をかけて御言葉を取り次いだ説教の記録と言うべきであろう。
 『新生の福音』及び『救いの歴史と信仰の倫理』は、現在日本聖書協会の理事長の重責を担っている大宮溥牧師が主日礼拝で語ったローマの信徒への手紙の講解説教を本としてまとめたものである。大宮溥牧師は一九七五年、大村勇牧師の後任として阿佐ヶ谷教会に赴任し、二〇〇三年まで同教会の主任牧師として牧会と説教の責任を担われた。『新生の福音』のあとがきに書かれているように、大宮牧師は阿佐ヶ谷教会に赴任した翌年の一九七六年からロマ書の講解説教を始め、本書はそれを土台にし、多少の修正や捕足を加えてできたものである。
 この説教の全体的な特徴は、まず聖書テキストに即している点である。聖書テキストそのものを正しく読みとれるような配慮がなされている。時にはギリシャ語原文の説明が入り、著名な神学者の言葉やキリスト教の歴史に残る事件なども引用されていて、馴染みのない者にとっては一瞬「難しい」と感じるかも知れないが、それに続いて、わかりやすく身近な事柄を題材として説明されていることが多く、テキストそのものの理解を深めるための引用であることがわかる。こうした構成から考えると、大宮牧師の、深い教養に裏付けされながらも、誰に対しても紳士的に対応される誠実な人柄が形となって現れている説教だと言えよう。前述したように、牧会の責任を託された牧師として、羊の声を聞きわけ、魂の叫びに耳を傾けていたからこそ、その会衆の心に届く説教ができるのであろう。そしてその特殊性に徹したことが、四十年経った現在において、時間や場所を超え読む者の心に響いてくる言葉となるのであろう。
 ローマの信徒への手紙は、キリスト教信仰の中心的テーマを扱っている大切な文書であることは言うまでもないが、説教する時は困難さを感じる。説明的になりすぎてしまって会衆がついてこられなくなってしまう退屈な説教か、その逆に会衆が離れて行かないようにと身近な話や今日的な題材を取り上げ、結果としてテキストから大きく離れてしまうという失敗を犯しやすい。大宮牧師の説教はそれらとは全く違う説教である。阿佐ヶ谷教会牧師として、会衆の信仰を養い、真の教会を建ててゆくために命を捨てる覚悟で、毎主日説教に取り組んできた一牧師の、説教の記録であり、同時にまた牧会の記録とも言える。しかしそれは、阿佐ヶ谷教会という個別性を超えて、あるいは四十年前という時代を超えて、広く現在の人々に読まれるべきメッセージを持っているのである。
 ロマ書の説教集はこれまでも有名な説教者によって出されてきた。半世紀以上前に出版された、竹森満佐一牧師の『ローマ書講解説教』(全三巻、新教出版社)は歴史的な名説教集と言われており、加藤常昭牧師の『ローマ人への手紙』(全四巻、教文館)もまた大変有名である。本書もまたこれから後にも多くの信徒に読まれ続けられるであろう説教集であり、「説教者にとっての一つのお手本」として読まれて行くことだろう。
 本の体裁としては、大きさと厚さは手に取りやすいサイズであり、また、一つ一つの説教が読みやすい分量に編集されているのも読みやすくしている要素と言えよう。

(よしおか・みつひと=日本基督教団吉祥寺教会牧師、『信徒の友』編集長)

『本のひろば』(2014年10月号)より