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内容詳細

 

 

「教会」を知るために

ステンドグラスに描かれている人物は誰か? 教会内部の配置はなぜ現在のようになっているのか? 動物の画像はどのような意味があるのか?「おとめマリア」「旧約聖書」「聖人」など項目別に、身近な教会堂に秘められた「謎」に迫る。装飾や色、聖書に見られるシンボルをイラストつきでわかりやすく解説。

 

訳者紹介 竹内一也(たけうち・かずや)

1954年、千葉生まれ。国際基督教大学教養学部卒。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了(哲学専攻)、聖公会神学院修了。在学中Church Divinity School of the Pacific(米国バークレー市)に留学。現在、日本聖公会司祭、市川聖マリヤ教会牧師、聖公会神学院非常勤講師。

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書評

シンボルから見るキリスト教入門

加藤博道

 『「教会」の読み方』というタイトルにまず心をひかれる。「読む」とはどういうことであろうか。そこに示されている意味が理解できるということであろうが、その「理解」にもずいぶん幅と深みがあるように思う。そこに書かれている文字や描かれている絵、図柄がその背景に持っている得体の知れないほどの奥行き、その背景にある史実、伝説を交えた物語、そしてそれを語り伝えてきた長い歴史の中での人々の信仰、いやほとんど情念と言えるようなものに一瞬で触れる体験、そしてそれが観ている自分の中に飛びこんでくるような出来事。改めて味わい納得したり、新しい興味が湧いてくる。著者は教会の中の画像(ステンドグラス等)が「文字の読めない人々のための物語本」、教育的な手段であったという度々言われてきた考え方に同意しない(一一頁以下)。その「画像が表している物語を前もって知らなくても理解され得るような画像は」全くない、それらの物語は文字で読まれる以上に語られてきたものであり、「文字の読める人々も読めない人々も等しく原点に馴れ親しんでいた」のだと言う。それらが画像で表された時に起こる「共有の感覚」──感動や共感や興味──こそ重要なのである。
 まず序言では象徴の意味と力について述べられる。象徴は言葉数の多い文字表現が持っていないような力で、わたしたちの目と心をひきつける。「ΑΩ(アルファとオメガ)」など(二二三頁)、「わたしはアルファでありオメガである。最初の者にして、最後の者、始めであり、終わりである」というキリストの究極的な意味を示す言葉が、瞬間的に感覚的に捉えられる。このギリシャ文字は「しばしばステンドグラスで上の高いところに」、東方教会のイコンの「イエスの光背の中に、十字架の横棒の上に」見られ(二二四頁)。またキリストが死に打ち勝ったことを表す復活の太いろうそくに記される(四一頁)。
 「なぜ教会を読むのか」「画像の中のキリスト教神学」「聖餐」「教会史の二つの点」「源泉」「数とかたち」「色」「光背」について述べた序言のあと、「教会建物と調度」「十字(架)とクルシフィクス」「神」「イエス」「おとめマリア」「聖人」「旧約聖書」「博士、天使、抽象的事物」「動物、鳥、魚」「植物」「文字と言葉」とそれぞれ多くの画像、象徴、その背景や意味の紹介があり、最後は教会の聖職者の服装のことが語られる。これはかなり英国教会(聖公会)の伝統に添ったものと言える。
 「源泉」の個所で説明されているが、教会の多くの画像、象徴の源泉は、もちろん聖書が第一であるが、しかしそれだけではなく「外典的なテキスト」例えば「ヤコブ原福音書」「ニコデモ福音書」等があり、また数世紀にわたり語られ伝えられてきた聖人伝や殉教伝、伝承あるいは伝説というべきものも多く含まれている。「神の小羊」(アグヌス(アニュス)・デイ)や「魚」(イクテゥス icthus)がそのスペルから「イエスース・クリストス・テウー・ヒュイオス・ソーテール(イエス・キリスト、神の子、救い主)」と重ねられ、実は十字架以上に初期のキリスト者たちが採用した教会の秘密の象徴であったこと等はまだしも(六一頁、一九七頁)、ユニコーンの象徴性等は、日本人にはあまり馴染みのない、しかしローマ神話においてはよく知られた存在である。キリスト教のシンボルは、キリスト教以外の様々な伝承からもとられているし、多くの殉教伝等は錯綜した伝説というべき部分も多く含んでいる。しかしそれらも含めて、キリスト教という宗教の単なる論理一貫性だけではない、それを担ってきた人々の多様な信仰の在り方が見えてくるようである。訳者の言われる「旅行の手引き」、キリスト教美術への入門と同時に、本書は具体的な画像、象徴の個別の説明だけでなく、キリスト教信仰の基礎、概要についてかなり多くを述べており、全体を読み通す中で、二千年の歴史を生きてきたキリスト教への、ユニークな入門書ともなるのではないだろうか。

(かとう・ひろみち=日本聖公会東北教区主教)

『本のひろば』(2014年1月号)より