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内容詳細

日本のキリスト教化を目指して誓いを立てた海老名弾正、徳富蘇峰ら

35人の青年たち〈熊本バンド〉。

迫害により京都へ逃れ、同志社へ入学した彼らの前に、

新島襄のもとで学ぶ学生たち〈神戸バンド〉がいた。

キリスト教への篤い志をもつ若者集団が織り成す複雑な人間模様、

徳富蘇峰を中心に浮かび上がる初期同志社の学生群像とは。

新島研究40年の著者が日米双方の資料を駆使して描く、渾身の1冊!

 

目次

第1部 同志社時代の徳富蘇峰

第2部 同志社第一期生と「神戸バンド」

第3部 「神戸バンド」と「熊本バンド」

第4部 「熊本バンド」の諸問題

第5部 人物列伝(29名):  「神戸バンド」 5名、「神戸バンド」の周辺3名、「熊本バンド」16名、同心交社 5

〈著者紹介〉

もとい・やすひろ

1942年生まれ。同志社大学大学院経済学研究科修士課程修了。博士(神学)。同志社大学神学部教授。近代日本キリスト教(プロテスタント)の歴史、とくに同志社創立者・新島襄の思想と生涯、ならびに初期同志社の歴史を研究テーマにしている。『新島襄と徳富蘇峰』(晃洋書房、2002年)を始め、新島襄に関するものを中心に30冊を越える著作がある。

 

 

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書評

史・資料を駆使して描く初期同志社の人間群像

塩野和夫

 「われらが蘇峰の生誕百五十周年記念日」(三五九頁)にあたる二〇一三年三月一四日に出版された本書は「青年期の蘇峰の周辺人物に特定して、彼らの交遊に照明を当て」(ⅰ頁)、丹念な史・資料調査と共同体の構造的な分析により初期同志社研究に新たな地平を拓いている。力作である。章立ては五章構成であるが、実質的には「第一章 同志社時代の徳富蘇峰」から「第四章「熊本バンド」をめぐる諸問題」が前半で初期同志社に学んだ学生集団を構造的に分析している。「第五章 人物列伝」が後半で、人物研究によって前半と対応させつつその内容を提示している。

 前半四つの章は、「同志社最初の入学生八人とは、誰か」「神戸バンドの抽出」「熊本バンドとは何か。誰か」「(熊本バンドの)相互に抗争する二重構造の検証」(ⅲ頁)などを手がかりとして、初期同志社に学んだ学生を構造的に分析する。その結果、最初の八人が特定され(三六頁)、神戸バンドは定義される(三四頁)。熊本バンドも定義され(六九頁)、人数は三七人とされる(七四頁)。さらに、熊本バンドの内部では「バイブル・クラス」(教会派)と「同心交社」(政治派)が対立し(五一頁他)、神戸バンドも両派の中間にいた学問派と教会派に接近したグループがいた(五六頁)とされる。このように学生を集団として捉え彼らの構造を分析する手法を採るために、その定義や人数、グループによる動向が詳細に検討され明らかにされる。ここに本書の際立った学問的功績と限界がある。たとえば、「神戸バンド」にしても「熊本バンド」にしても、それは歴史的集団の概念であり、それぞれに豊かな歴史的特色を秘めている。そうだとすると、構造的分析によって歴史的個体が持つ精神的・霊的・文化的豊かさにどこまで肉薄できたのか、ここに歴史研究の主要な課題に対する本書の限界とこれからの研究テーマがある。

 後半の第五章は前半の分析結果を満たす四グループ三一名の人物伝であり、次の通りである。「一、「神戸バンド」の五人」元良(杉田)勇次郎・中島力造・本間重慶・須田明忠・二階堂(横山)円造、「二、「神戸バンド」周辺の三人」田中伝吉・渡辺某・吉川厳、「三、「熊本バンド」(「バイブル・クラス」)」小崎弘道・海老名弾正(喜三郎)・宮川経輝・市原盛宏・不破唯次郎・金森通倫・横井(伊勢)時雄・山崎為徳・浮田(竹村)和民・加藤勇次郎・吉田(宇野)作弥・下村孝太郎・岡田松生・森田久萬人・和田正脩・横井時敬、「四、同心交社」徳富蘇峰(猪一郎)・蔵原惟郭・家永(辻)豊吉・大久保真次郎(真二郎)・上原方立。初期同志社に学んだ学生の人物伝(横井時敬を除く三〇名)は、「要するに、狙いは、蘇峰を軸とする初期同志社学生たちのデータベース」(三五八頁)とされる。本書に関して言えば前半の構造分析で示された器に満たす内容である。史料を駆使したこれだけの人数の人物史研究をこなせるのは本井氏をおいて他にない。その意味で初期同志社研究の基礎的業績としての性格を持つ。しかし、記述内容においてばらつきがあり、その説明もない。たとえば、伝記と資料が混在した(横井時雄・加藤・岡田等)人物伝や資料紹介だけ(徳富)の叙述がある一方で、伝記だけ(元良・中島・本間等)の人物伝もある。あるいは人物伝でも全生涯を対象(須田・二階堂・田中等)とした研究に対して、同志社関連の時期に集中した(海老名・宮川・市原等)記述がある。このようなばらつきは各グループの初めに説明文を入れるとか、資料と人物伝を分ける等の工夫でかなり解消できたと思われる。

 同志社は関係者のドラマ化である種のブームにあると言う。しかし、ブームは必ず過ぎ去る。その後に一体何が残るのか。初期同志社に関する堅実な研究業績がこの時期に出版されたことを多とし、心から喜びたい。

(しおの・かずお=西南学院大学教授)

『本のひろば』(2013年6月号)より