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内容詳細

『日本基督教会史』などの著書で知られる、日本キリスト教史研究の先駆者山本秀煌(やまもとひでてる)の初の評伝。J. C. ヘボン、S. R. ブラウン、J. H. バラに教えを受け、 植村正久、井深梶之助らと親交を厚くし、我が国のプロテスタント教会の草創期を支えた伝道者でもあった山本の知られざる人物像に迫る。明治学院神学部での教師生活、宗教法案反対運動など、多面的な活躍を記す本格的研究。


【目次】

第1章 若き時代
第2章 伝道者を志す
第3章 教師として立つ
第4章 高知教会
第5章 横浜住吉町教会
第6章 横浜指路教会
第7章 米国留学から山口教会へ
第8章 大阪東教会
第9章 明治学院神学部
第10章 神学教師として
第11章 教会史家として
第12章 宗教法案
第13章 晩年

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書評

「伝道者から教会史家」への道筋を示す

五十嵐喜和

 本誌の読者の中にも、山本秀煌とは何者かと思う方がおられるかも知れない。「内村鑑三や植村正久のように、その派の指導者としてダイナミックに生きてきた人物と違って、……一見社会思想史的にみて目立った動きをしてない」(六頁)ために、余り知られていないからである。しかしそれは「一見」であって、その働きは、日本のキリスト教会にとって忘れてはならないものであることが、ここに初めて明らかにされる。本書は、フェリス女学院史料室発行『あゆみ』に連載されたものを基礎に、この程纏められたものである。

 山本秀煌(やまもと・ひでてる)は、一八五七年丹後国峰山藩の奉行職岩井磯根の三男として生まれ、幼少時より漢文学を修業し、峰山藩御蔵奉行の養子となった。東京の私立独逸学校を経て一八七三年横浜のヘボン塾で英学を、そして一八七四年八月横浜公会で宣教師J・H・バラから洗礼を受けたのちはブラウン塾で英学及び神学を学び、一八七七年九月には東京一致神学校に入学、後に日本基督一致教会で准允、そして按手を受けた。著者は、山本秀煌の日記から、当時の神学生・教職が英語に堪能であった一方、讃美歌を歌うのは苦手で、植村正久と名古屋で伝道をした折、説教前後の讃美歌は、オルガンもなく、詩吟か義太夫か分からなくなり、切り上げて説教に移ったというエピソードも紹介する。牧師・伝道者として高知教会、住吉町教会=指路教会、(米国留学、)山口教会、大阪東教会を歴任。又フェリス・セミナリー、住吉小学校、そして一九〇九年からは明治学院神学部教授として、教鞭をとった。日本基督教会では、長期に亘って大会書記、四度の大会議長、伝道局理事等の責任を果たした(一九四三年没)。

 これら山本秀煌が歴任した諸教会、諸学校を中心として、本書はさながら日本基督教会史、ひいては、日本のキリスト教史である。しかも牧師・伝道者、教師の働きが、時代的背景の中で捉えられ、社会思想史的意味を持ったものでもあることを、明確に示す。個教会を軸にして、新神学問題や『日本の花嫁』事件等を織り交ぜ、奥行き豊かに記述される。象徴的なのは、高知教会時代である。板垣退助と高知伝道の関係、そこでの民権思想とキリスト教思想との関わり、そして教会の急激な発展等が辿られ、鋭く分析される。また第一二章では、政府の宗教法案と一九二九年の宗教団体法案に対して山本秀煌が中心メンバーとして反対したことが紹介される。日本基督教会はもとより諸教派は、挙げてこの問題に取組んだ。

 しかし、著者の山本秀煌論は、何と言っても副題のように、「伝道者から教会史家へ」の道筋を示すところにある。神学生時代名古屋伝道で経済的に逼迫し、新聞を借り読みして記事を丹念に書き記し、生きた歴史への関心を史料をもって綴り、このことがやがて教会史叙述の方法の基礎となっていると述べる。勿論漢学の素養が背後にある。本書には判明した歴史関係の著作が列記されている。中でも、一九二九年刊『日本基督教会史』(復刻版一九七三年)は、日本のプロテスタント・キリスト教会史の古典的名著である。該書は、長老制(プレスビテリアニズム)の日本基督教会が、中会(プレスビテリー)よりも大会(シノッド)中心であるかのような印象を与え、また、教会の自給独立の主張のゆえに緊張関係を生んだ宣教師とその働きについて、感謝と評価を過不足なく記している。該書が、如何に日本のキリスト教会史研究に貢献をしているか、その影響史も記述されている。

 著者は明治学院大学に関係が深く、キリスト教史学会の重鎮で、日本基督教団横浜指路教会の長老である、書くべき人によって書かれた好著である。ただ一言。「教会浄化」は「教会訓練」とし、その項目の当事者は匿名の方が良かったと思われる。

(いがらし・よしかず=日本キリスト教会茅ヶ崎東教会牧師)

『本のひろば』(2013年3月号)より