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内容詳細

生けるキリストの証言を聞く喜び!

伝統や周囲に束縛されない自由さ、従わずにはおられない威厳を人々に感じさせるイエスの教えと行い。それらが指し示す新しい生き方への招きを、今に生きる私たちに語った29編のメッセージ。

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書評

珠玉の短編集!

平野克己

ツꀀ 本書は、既刊のヨハネ福音書講解説教『愛と自由の福音』(二〇一二年)に続く、説教集である。『希望の旅』(大宮チヱ子牧師との共著、教文館、一九九七年)から数えると著者の第三説教集になる。

 大宮先生が日本基督教団阿佐ヶ谷教会に主任牧師として着任されたのは、私が中学生の時。以来、高校、大学、神学校、さらに伝道師時代を含めると約十五年、私は大宮先生が語る聖書の言葉に耳を傾け続けた。私のいちばん大切な部分は、この牧師の説教によって養われた。

 大村勇牧師時代に土台を築いた阿佐ヶ谷教会は、大宮溥牧師時代に礼拝出席者数が増加し、いつしか平均三〇〇名を数えるまでになった。しかも一九八〇年代に入ってなお、この教会は「若者の教会」を自称していた。上京青年がアパートを捜す阿佐ヶ谷という立地のせいもあるだろう。私の大学時代、一九八〇年前半には、学生だけで五〇名が集い、伊豆大島の施設で七泊八日の自炊ワークキャンプを営むほどだった。収録された説教の大部分は阿佐ヶ谷教会で行われたものではない。それでも、多くの若者たちの心を形成した説教がどのようなものであるか、文字を通して多くの方々にふれていただけることを嬉しく思う。

 マルコ福音書第一章から第七章までが収録された本書は、特別な説教集である。著者は「あとがき」にこう記す。

 「五十年に近い教会主任担任教師の期間中に、このような形のマルコ福音書説教は実際に少なくとも三回行ったが、ここに収録されているものは一九七一年一月から七二年一二月にかけて、雑誌『福音と世界』の巻頭説教として掲載されたものが中心になっている」。

 このように、本書の大部分は、四〇年前に記された説教を修正し、文体を整えたものである。珠玉という言葉がある。海の真珠、山の宝石。そのように小さくも美しい光を放つ作品を指す形容詞だが、私は、本書を「珠玉の説教集」と呼ぶことをためらわない。四〇年の歳月をかけながら著者が磨き直していった説教なのである。

 下敷きになった原稿は「読まれる説教」として記されている。そのため、どの説教も比較的短く、八頁ほどに収められている。それだけに言葉に無駄がない。

 さらに、ほとんどの説教に、著者の読書体験が出てくる。改革者のルター、カルヴァンはもとより、トマス・ア・ケンピス、ジョン・バンヤン、コールリッジ、キルケゴール、ドストエフスキー、クリストフ・ブルームハルト、バルト、ティリッヒ、ジョン・ベイリー、クルマン、オットー。さらに、石牟礼道子、武田清子、大江健三郎、俳人・花田春兆、など、など。人名索引や文献検索をつくるなら、いったいどのくらいの量に及ぶだろう。

 「講解説教」ではあるが、説教テキストをただ説明することに著者の関心はない。どの説教も、聖書テキストから想像力を呼び覚まされるまま、時代の問題や説教者自身の体験に積極的に言及し、主イエス・キリストの今日的な意義を浮かび上がらせていく。そうして、説教者の対話の中に、読み手を引きずり込んでいく。しかも、「いわゆる「教団紛争」の激しい時代で、わたしは嵐に悩む弟子たちの船に主イエスが乗り込んでくださるような思いで、幾篇かを書いた」という(「あとがき」)。厳しい状況の中、差し迫る思いをもって、み言葉に耳を傾けたのである。だから、読む者の心を打つ。

 四〇年も前の説教であるのに、古びた感じはしない。信徒の方々には祈りの手引きとして、また、説教者の方々には第一級の説教黙想の文章として、読書を楽しむことができるはずである。

(ひらの・かつき=日本基督教団代田教会牧師)

『本のひろば』(2013年3月号)より