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内容詳細

隣人のために生涯をささげた4人の愛の実践者たち。なぜ、かれらはそのような人生を歩むことを選んだのか。

時代背景と、影響を受けた人物と思想の紹介をまじえて、本人の言葉を丁寧に読み解き、その活動の原点にある神秘体験(召命)を探る!

 

笶ァ目次より笶ァ

Ⅰ M.L.キング――非暴力の思想の誕生と実践

Ⅱ ガンディー――その思想の背後にあるもの

Ⅲ マザー・テレサ――二つの召命 

Ⅳ 神谷美恵子――その神秘体験と宗教観

著者紹介

佐々木勝彦(ささき・かつひこ)東北学院大学文学部教授。

著書 『まだひと言も語らぬ先に 詩編の世界』(2009)、『愛は死のように強く 雅歌の宇宙』(2010)、『理由もなく ヨブ記を問う』(2011)。

訳書 C.リンドバーグ『愛の思想史』(コンパクト・ヒストリー)(共訳、2011、著書・訳書ともに教文館)ほか、著書・訳書多数。

 

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書評

「愛」を実践した四人の信仰者たち

伊藤 悟

 マーティン・ルーサー・キング、マハトマ・ガンディー、マザー・テレサ、神谷美恵子――組合せとしては異色にも感じられるが、いずれも隣人のために生涯を献げた歴史に名を連ねる人々である。四人については、数多くの文献が世に出、すでに様々な角度から研究も進められてきた。にもかかわらず、彼らの生き方は震災後の時代にも感動を与え続け、その愛と真実のメッセージはこれからも廃れることがないだろう。

 本書の書名を見ていささか堅くぎこちなく感じる読者もあろうが、「愛の類比」は、スコラ学の「存在の類比」やバルトの「信仰の類比」の用法からヒントを得て著者が設定したという(「はじめに」)。「類比」(アナロギア)とは、未知の領域や説明不能なことがらを既知の類似した状況を用いて理解しようとする活動であり、「愛の類比」とはまさに愛が見えるかたちで証しされていることを指す。

 取り上げられている四人は、目の前の現実的問題に正面から対峙するとともに、いずれも超越的次元に向かって開かれていた点で共通している。著者の関心は、もっぱらこれら四人の人物のなかで、直面する現実課題と超越との接点がいかにもたらされ、それがいかにして持続されたかにある。

 本書の特徴は、一つは「痒いところに手が届く」とでも言ったらよいだろうか。いずれの人物も一般的にもよく知られ、どのような功績を残し、何がその人生の特徴であったのかは多くがそらで言えるほどである。しかし一旦、その背景や論拠を明確にせよと言われると、断片的な理解だけでじつにおぼつかない部分も多い。本書では、これまで理解していそうで、していなかった事柄、何となくあやふやなままにしてきた事柄、表層理解に留まってきた事柄を見事に整理し、そこから掘り直しの作業をしてくれている。痒いところに手が届くのである。

 例えばM・L・キングについては、「1 略年譜」からはじまり(略年譜というわりに一四頁も割いてかなり詳細に記されている)、「2 アメリカの黒人の歴史」「3 M・L・キングの家族」「4 M・L・キングの学んだ思想」「5 非暴力への遍歴」「6 非暴力運動の発端と展開」という構成で進められるが、なかでもキングの生き方に大きな影響を与えた思想として、ヘブライズム、山上の説教の解釈、H・D・ソロー、W・ラウシェンブッシュ、R・ニーバーの思想が次々に紹介されていく。キングの見える功績は、略年表だけ留められ、むしろキングに影響を与えた人物や思想の紹介、そしてキング自身の言葉に殆どの紙面を費やしているのである。

 マザー・テレサについては、彼女に大きな影響を与えたアッシジのフランチェスコとリジューのテレーズその思想的背景まで追求する。ガンディーについては、ヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教、キリスト教との関わりを次々に明らかにしていく。神谷美恵子については、新渡戸稲造、クェーカー、ハンセン病関連年表を取り上げ、いずれの人物についても、読者の関心を次々と奥の間へと引きずり込んでいく。まさに「類比」のど壺にはまり込んでいくかのようである。

 もう一つの本書の特徴は、一次資料、二次資料からの引用が贅沢になされている点である。キングは、『マーティン・ルーサー・キング自伝』からの引用が最も多い。ガンディーは『自叙伝』、マザー・テレサは『マザー・テレサ書簡集』『秘められた炎』、神谷美恵子は『自省録』からの引用が相当量みられる。聖書からも、まとまった引用が多くなされ、本書自体が貴重な資料集となっている。

 四人は二十世紀を代表する愛の証し人であることに疑いを挟む余地はないが、なぜこの四人であったかについては、ほとんど説明がない。三人のキリスト者の中でガンディーは少々異色であるし、唯一の日本人として神谷美恵子が取り上げられているのも若干の違和感を覚える。著者の解説がもう少し欲しい。

 とはいえ、これら四人の「人物史」を学ぶにあたって、入門書というよりは、ややアドバンスド・レベルの書物として、これまでにないアプローチと水準で読者の信仰と生き方を刺激してくれる良著である。

(いとう・さとる=青山学院大学教授)

『本のひろば』(2013年1月号)より