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内容詳細

人間らしく、生き生きと、正々堂々と生きよう!

日米の狭間にあって等しく悩み、苦しみ、愛を求め、恐れ、問いを抱く人々の心に寄り添いながら語られる、神の愛と自由のメッセージ。日本語でも英語でも読めます。

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書評

真実の人間の人間らしさを語りきった珠玉の説教集

嶋田順好

 著者は、合同メソジスト教会宣教師として、一九七四年~二〇〇四年までの三〇年間にわたり、青山学院女子短期大学、恵泉女学園大学、青山学院大学でキャンパス・ミニストリィの職務を全うされた。宗教主任としては新米であった私が、著者の日本における最後の五年間を共に歩む機会を与えられた幸いを今も深く神に感謝している。大きく重くのしかかる課題に遭遇しつつも、著者が、冷静に、公平に、思慮深くイエスの愛をもって堂々とキャンパス・ミニストリィを担っていく姿に心打たれ、また、何よりもチャペルで語る折々の説教によって、私自身が常に励まされ、希望を与えられたからである。

 米国に帰国後の二〇〇六年八月~二〇一一年七月までの五年間にわたり、著者はマンハッタンのど真ん中、マディソン・スクエア・ガーデンから徒歩で十分ほどのところにある日米合同教会の牧師となられた。この教会は、今年で創立一一八周年を迎える伝統ある教会だが、著者が就任した当初は、様々な教会的試練を受け、礼拝出席者が二十名台までに落ち込む存亡の危機のなかにあった。しかし、二年後の二〇〇八年八月、著者の招きにより私がこの教会を訪ねた時には、礼拝出席者は七十名ほどに回復していたのである。

 ニューヨークほど活気の渦巻く都市はない。世界中から志ある者が集い、様々な挑戦が続けられる。それだけにニューヨークほど競争が激しく、人が孤独を味わわされる都市もないであろう。日米合同教会には、この町で生き、働く、多様な背景をもった人々が集う。渇ける魂を携え、真実の慰めと励ましを求めて。その一人一人を、癒し、力づけ、希望をもって立ち上がらせ続けた説教がここにある。

 この教会では、誰一人として疎外されることのないよう日本語と英語が、完全に平等に用いられてきた。もちろん説教も日英両語で語られるわけで、自ずと説教時間は、十二分前後と短いものにならざるを得ない。それだけに説教者には、明晰な構想力と集中力と深い黙想が要求される。

 本書には、Ⅰ・教会暦(十編)、Ⅱ・イエスの愛(五編)、Ⅲ・癒しと新生(六編)、Ⅳ・平安(五編)、Ⅴ・社会への眼差し(七編)、Ⅵ・教会へのメッセージ(九編)、Ⅶ・東日本大震災、ヒロシマ・デー、終戦記念日(四編)の七章にわたり、日英両語で併記された四六編の説教が収められている。平均すれば二千字前後の説教である。いずれもまことに読みやすく、しかも深く心に迫るメッセージ性に富んでいる。というのも、人間の破れや弱さの洞察が鋭く、多くの場合、加害者であると共に被害者である人間のまことに矛盾した二面性を描きながら、神の愛の厳しさ、優しさを語るからである(「わたしは良い羊飼い」)。同時に、誰しもが直面する現実の不条理や苦しみや悲しみに潜む神義論的な問題を丁寧に拾い上げながら、聴衆の現実に深く根差した心憎いばかりの例話を用い、苦しみのただなかに降りてきてくださったイエスの愛の豊かさを存分に語り切っている(「後ろのものを忘れて」、「ヨブのメッセージ」等)。

 著者は、米国キリスト教思想史とキリスト教倫理学を専門とするだけあって、本書を読んでいると、マサチューセッツ植民地初代知事のジョン・ウィンスロップや、アメリカ史のなかにおけるキリストとも言えるアブラハム・リンカン、また二十世紀を代表する神学者ラインホールド・ニーバー、そして公民権運動の指導者であったマーティン・ルーサー・キング牧師の説教や演説の影響を読み取ることができる。そこにはくたびれた手垢のついたリベラリストではなく、イエスの十字架に至るまでの愛に促されつつ、アメリカの建国の理念と理想に、ひたすら忠実たらんとする筋金入りの福音に基づくリベラリストが佇んでいる。それゆえ、この説教集全体を貫く通奏低音は、唯一絶対なる神が神であられることにおいて、最もラディカルに現実化する「人間の人間らしさ」ということに尽きる。換言すれば、その人間らしさは、イエスの愛に捉えられ、打ち砕かれた存在が、一切の人間的自己神化から解放されることにおいて体現される霊の恵みと言えよう。

 十名ほどの一般学生に読んでもらい読後感を聞いたところ、皆が皆、深い慰めと希望と力を与えられたとの極めて肯定的な感想を寄せてきた。それだけに、ぜひ、クリスマスの季節に、一人でも多く若い求道の友に読んでいただきたい。

(しまだ・まさよし=青山学院宗教部長)

『本のひろば』(2012年12月号)より