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内容詳細

イエスはいつ、どこで生まれたのか? 彼は奇跡を行ったのか? 宣教の中心は何だったのか? 誰がなぜ彼を十字架につけたのか? 本当に死者の中から復活したのか? 史的イエス研究の方法論から研究史までを、死海写本研究で知られる現代聖書学の第一人者が27の問いで答える最良の入門書。

【「訳者あとがき」より】

キリスト教信仰の基盤である歴史のイエスを、歴史からの問いにさらし、歴史学という土俵の上に載せることに、抵抗を感じる信仰者も少なくないかもしれない。史的イエス研究が時にラディカルな信仰(教会、キリスト教)批判と結びつきうることもその一因かもしれない。しかし、「歴史」なしのキリスト信仰は、地に足がついていない幽霊のような信仰となってしまう。もちろん史的イエス研究はキリスト教信仰の土台にはなりえない。しかし、信仰と歴史を健全に結びつけることがキリスト教信仰を確かに豊かにする。そんな著者の熱い確信が本書全体を流れている。

【目次】
まえがき

主要文献略語表

聖書略語表

第1章 探求なき時代、古い探求の時代、新しい探求の時代、そして第三の探求と呼ばれる「イエス研究」の時代

第2章 イエス研究と信頼に値する情報を得る方法

第3章 諸資料、特にヨセフスについて

第4章 イエスのユダヤ教

第5章 イエスの誕生と青年期

第6章 イエス、洗礼者ヨハネ、そしてイエスの公生涯の初期

第7章 イエスと考古学

第8章 イエスによる神の支配(神の王国)の宣教と彼の譬え話

第9章 イエスの十字架と復活

第10章 結論

訳者あとがき

さらに学ぶための参考文献表

 

<2023年3月20日価格改定>

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書評

2012/10/7付の読売新聞に書評が掲載されました。

 

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ガイドブックの決定版!

嶺重 淑

 イエスに関する文献は、入門書から学術書、さらには通俗的なものに至るまで、すでに無数に存在している。事実、ここ数年の間に出版された史的イエスに関する学術的文献の訳書に限ってみても、五―六冊は挙げられるが、それぞれの主張が微妙に食い違っているために、評者自身もしばしば混乱させられ、どの著者の主張を基本的な理解として受け入れればいいのか、判断が難しいというのが正直なところである。それだけに、現時点での研究成果を踏まえ、史的イエスについて知りうる事柄を簡潔にわかりやすくまとめてくれた本が出版されるのを秘かに期待していたのだが、本書はまさに、そのような期待に応えてくれる待望の史的イエスの入門書であり、(かなり専門的な記述も含んでいるとはいえ)一般読者に向けて記された「イエスの生涯と思想へのガイドブックの決定版」である。

 本書の特徴は何より、史的イエスをめぐる計二七の主要な問いに焦点を当て、その問答を軸として全体が構成されている点にある。具体的には、「なぜ「イエス研究」は必要なのか?」(問一)という問いに始まり、「いつ、どこで、イエスは生まれたのか?」(問一〇)、「処女降誕に史実性はあるのか?」(問一一)、「イエスはマグダラのマリアと結婚していたのか?」(問一五)、「誰が、なぜ、イエスを十字架につけたのか?」(問二四)、「イエスは死者の中から復活したのか?」(問二七)というように、素朴な問いから歴史的(神学的)な問い、さらには通俗的な問いに至るまで、史的イエスに関するありとあらゆる問いがここには含まれている。これらの問いの多くについては、入手できる資料が限られているために確かさをもって答えることはできないと、著者は自らの提示する答えが必ずしも完全ではないことを率直に認めつつ、それぞれの問いに対して可能な限り正確に答えようとしている。そのような意味でも、まず関心のある箇所(問い)から読み始めてみるというのも本書の一つの読み方であろう。この他、本書の特徴として挙げられるのは、イエスを「最もユダヤ教的なユダヤ人の一人」(二〇頁)と見なし、あくまでも同時代のユダヤ教の枠内で捉えようとしていること、さらには、種々の同時代文献はもちろん、考古学上の最近の発見をも視野に入れて、多様な観点から史的イエスを探求しようとしている点であろう。

 評者自身、本書を通して史的イエス研究の意義を改めて強く認識させられた。ともすると私たちは、イエスの歴史性を抜きにして、イエスの言葉の現代的解釈にのみ関心を向け、自分たちの現在の状況に直接適用できそうなイエスの思想だけを取り入れようとする傾向がある。あるいは、「神の子イエス」から遠く隔たっているように思える「史的イエス」という言い方そのものに、抵抗を感じる人も少なくないかもしれない。しかしながら、まさに訳者のあとがきにおいても指摘されているように、キリスト教信仰が「歴史のイエス」に基礎をもつ限り、「『歴史』なしのキリスト教信仰は、地に足がついていない幽霊のような信仰」(三四五頁)であり、現実性を伴わない信仰なのである。

 原著者のジェームス・H・チャールズワースは、プリンストン神学校の新約聖書学教授で、日本ではあまり知られていないが、すでに多くの著作がある国際的にも著名な研究者である。その研究分野はイエス研究の他、旧約・新約の外典、偽典文書や死海文書、ヨセフス、ヨハネ福音書等、多岐にわたっているが、そのような彼の博識は、本書において十分に生かされている。

 訳文は明快で、読みやすく仕上げられている。入門書とはいえ、本書は三六六頁に及ぶ書物であるが、ご多忙のなか、本書を訳された訳者のご苦労を覚え、心から感謝したい。なお、本書には折に触れて、訳者による丁寧な訳注が付けられているが、特に初学者には大きな助けとなるであろう。本書を、イエスの生涯と思想に関心をもつすべての人にお勧めしたい。

(みねしげ・きよし=関西学院大学人間福祉学部准教授・宗教主事)

『本のひろば』(2012年12月号)より