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内容詳細

1910(明治43)年の設立から2010 年に至るまでの、キリスト教学校教育同盟の100 年を一貫して叙述する通史。日本のキリスト教学校が連帯して世俗化の試練を乗り越え、互いにキリスト教による人間教育の向上を目指し奮闘してきた歴史を振り返り、その行く末を展望する。学校・教育機関必携のレファレンス。

 

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書評

日本のキリスト教教育の歴史と展望を記す

キリスト教学校教育同盟百年史編纂委員会編

キリスト教学校教育同盟百年史

 

大西 晴樹

 本書は、二〇一〇年十一月に一〇〇周年を迎えたキリスト教学校教育同盟(以下、教育同盟)の通史である。教育同盟は現在、プロテスタントの私立学校九八法人二八六校が加盟する学校間組織であり、一九一〇年から一九五六年までは基督教教育同盟会、一九五六年から一九七一年までは基督教学校教育同盟、その後は現在の名称で呼ばれている。わが国では「キリスト教教育」という言葉が一般的に、教会教育ではなく、学校教育に対して使われるのは、教育同盟一〇〇年の活動と決して無関係ではない。

 本書の編纂には、一一年以上の歳月が費やされている。編纂委員会は、加盟各校の退職者にして年史編纂のベテランである顧問と、加盟各校の現役教員にしてキリスト教史学会、ないしはキリスト教教育学会の会員である編纂委員から構成された。しかしながら、個別学校史の編纂ではなく、教育同盟という「学校間組織の通史」の編纂は、前人未踏の領域であり、困難を極めた。この作業への挑戦を可能にしたのは、歴代理事長の熱心な後押しと、資料の蒐集整理のための若手研究員職の設置、第八号まで刊行した『百年史紀要』の出版であった。

 本書の特色は以下の三点にある。第一は、学術的批判に耐える通史である。本書刊行に先立ち、二〇一〇年に詳細な『年表』が刊行された。今回、本書叙述の根拠となる『資料編』(非売品)が同時に刊行され、読者は、資料にもアプローチできる。第二は、教育同盟史を織りなす緯糸であるエキュメニズムと、経糸であるナショナリズム、ないしは、国家主義的な教育との対峙を自覚的に描いていることである。教育同盟設立の根拠として、学校教育においてキリスト教教育を禁じた一八九九年の文部省訓令第十二号が挙げられてきたが、一九一〇年のエディンバラ世界宣教会議による合同大学設立運動も重要である。このエキュメニズムの系譜は、日本基督教女子教育会の設立、米日合同の教育調査事業、戦後の北米八教派のいわゆるIBCによる援助、援助打ち切り後の財団法人設立と続いた。また、経糸の系譜に関しては、文部省訓令第十二号の廃止決議、神社参拝、教育勅語・「御真影」の奉戴、日中戦争後の国家への追従、戦後は学習指導要領・道徳教育への対応、そして最近の教育基本法の改定やネオ・ナショナリズムとの対峙として描かれている。まさに読者は、戦争と教育同盟の関連が本書の伏線にあるテーマだと感じ取るであろう。第三の特色は、第一の特色と一見矛盾するように思えるのだが、現場の学校教師をも含む広い読者層を想定し、教育同盟による現職教育の歴史を描いている点である。男子学校の基督教教育同盟会と女子学校の日本基督教女子教育会の合流により教育同盟はその裾野を拡げたが、現職教師の研鑽の場である御殿場東山荘での夏期学校は、聖書講習会と銘打って早くも一九二七年から始まった。その後は、教育同盟による聖書教科書の作成・出版が続き、そして一九五六年の機構改革後は、総会、夏期研究集会のような全国レベルの行事と、中央教育研究委員会の指導の下に四地区協議会(東北・北海道地区、関東地区、関西地区、西南地区)において、ほぼ学校種別の部会(小学部会、中学・高校部会、大学・保育部会)が毎年開催されてきた。本書は、そのような現職教育についても触れ、本書が現場の教師にとっても魅力的であることを意図している。

 一〇〇年の歴史を有するとはいえ、教育同盟の未来については議論のあるところである。人口の少子化が深刻化し、キリスト者教師が減少した現在、教育同盟は大きな曲がり角に立たされている。そのような状況の中で、カトリック学校連合会との提携や後継者養成の急務などを説く五つの提言(終章)は、必ずや読者に示唆を与えるにちがいない。

(おおにし・はるき=元キリスト教学校教育同盟百年史編纂委員会委員長・明治学院学院長)

(A5判・四〇〇頁+口絵二四頁・本体三六七五円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年9月号)より