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内容詳細

●説教者の参考と助けになり、信徒の信仰書にも用いられる説教を古代から現代までの範囲にわたって収集。

●本巻では、6世紀後半から宗教改革の前夜までのおよそ1千年の間の代表的な説教を収録する。

●教皇、修道士、学者、神秘主義者、宗教改革の先駆者など、さまざまな立場の説教者を網羅。

●収録された説教のほとんどが本邦初訳。

 

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書評

中世の説教者たちの全貌

高柳俊一編

シリーズ・世界の説教

中世の説教

 

岩本潤一

 本書は「シリーズ・世界の説教」の二巻目として、六世紀から宗教改革前夜の十五世紀までの中世の代表的な説教のアンソロジーである。収録された説教者は、教皇、修道士、スコラ神学者、神秘思想家、宗教改革の先駆者など計二十名。翻訳はほとんどすべて初訳であるが、そのうちの大部分が編者自身による訳であることに驚かされる。さらに巻頭に掲げられた総序の「中世の説教のコンテクスト」、また各説教者についての解説は、中世の思想史全体への見通しをも与える懇切丁寧な内容である。

 「中世の説教は、当時、説教者自身が準備したメモをあらかじめ完全に書いて準備したテクスト、あるいは聴衆のうちの誰かが書き留め、今日まで残ったテクストによって知られる限りのものである。そのような種類の説教は大部分がラテン語で書かれた、著名な人物のものである」(本書一五頁)。もっとも、民衆の教化のために説教において俗語を用いることはすでに九世紀に認められていた。

 西洋ラテン中世世界の説教は、古代のアウグスティヌスを範に仰ぎながら、十一・十二世紀の修道院における霊的聖書解釈の深まりを経て、十三世紀の托鉢修道会(ドミニコ会すなわち「説教者兄弟会」と、フランシスコ会すなわち「小さき兄弟会」)の登場をもって最盛期を迎える。托鉢修道会の説教活動は、拡大した都市の信者の宗教教育や、修道女の霊的指導を目的とした。とくに当時、まともな説教を行えない小教区司祭を補う形で、フミリアティやワルド派らの信徒による説教が広まり、それらは異端に陥ることもしばしばであった。托鉢修道会の使命は、正しい教義に基づく説教活動を通じて、これらの異端派に対抗することにもあったのである。

 フランシスコ会とドミニコ会の説教活動については、さまざまな逸話がある。中世最大の説教家であるフランシスコ会のパドヴァのアントニウスは、神学的素養を知られないままに入会した後、偶然、司祭叙階式での説教を請われて、その説教の才能を見いだされた。同じフランシスコ会のレーゲンスブルクのベルトルトが野外で行った説教会には二十万人もの人が集まったといわれる。ちなみに、当時、説教は必ずしもミサの中で行われるだけではなかった。

 ドミニコ会は一二六七年、教皇クレメンス四世の命で、いわばやむなくドミニコ会修道女の霊的指導を引き受け、彼女たちに対する説教活動を開始した。しかし、そこで行われたゾイゼらの指導を通じて、中世末期の「新しい敬虔(デウォティオ・モデルナ)」の霊性が生まれ、宗教改革や近代のカトリック改革にまで影響を及ぼしていくことになる。このように、中世、とくに盛期中世の説教は、キリスト教の発展にとってきわめて重要な意義をもっていることが分かる。

 なお、ドミニコ会士によるドイツ語説教は、その活発な活動と影響力にもかかわらず、マイスター・エックハルトが一三二九年の教皇勅書で断罪されたために、『知的魂の楽園』に収められた数少ない説教などのほかは、十分な姿で今日に伝わっていない。その例外は、本書に収められたエックハルトとタウラーの説教集である。

 二〇〇八年、カトリック教会でも初めて聖書をテーマとする世界代表司教会議(シノドス)が開催され、その中で説教の重要性があらためて指摘された。「神のことばが重要であれば、説教の質をよりよいものとすることが必要です。……説教は、聖書のメッセージを実現するものです」(教皇ベネディクト十六世使徒的勧告『主のことば』五九)。「新しい福音宣教」の主要な手段である説教のあり方を見つめ直すためにも、本書は大きな示唆を与えてくれるであろう。

(いわもと・じゅんいち=カトリック中央協議会主任研究員)

(A5判・四七六頁・定価四七二五円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年7月号)より