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内容詳細
イエスの誕生、犯罪人との十字架刑、エマオでの顕現、昇天とペンテコステ、パウロの回心、使徒たちの伝道窶披買泣Jは福音書と使徒言行録において、イエスの生涯と教会の時代とを結ぶ、壮大な救済の歴史を描いている。その流れを追いながら、善きサマリア人や放蕩息子の物語で語られる、小さき者を救おうとする神の愛の福音を、平易に説き明かした神学的講解説教。
書評
福音宣教へのエールとして語られた説教
喜田川信著
救済の歴史としての福音
ルカ福音書・使徒言行録講解説教
齋藤清次
本書は、ルカ福音書と使徒言行録の著者ルカが、イエスの生涯と、その証人としての使徒たちの働きを連続的にとらえている点に着目している。本書の著者は、ルカの記述から、旧約から新約へ、そしてキリストの再臨に至るまでの救済史的出来事を、講解説教によって説き、イエス・キリストのわざとそれを継承した使徒たちの働きを、平易なことばで実に分かり易く解き明かしている。
喜田川信師は、横浜で長年にわたり牧師として務めながら神学的著作に励んでこられた。これまでの多数の著作の中で、説教に関しては次のものがある。『神の国は近づいた』(一九七六年)、『説教による旧約思想入門』(一九九一年)、『福音の土台』(一九九二年)、『地上を歩く神』(一九九九年)。
著者の神学的著作は概して難解なものが多いが、今回の講解説教は各説教が短くまとめられ、理解しやすいのである。これは著者の福音に向かう真摯な心が読みとれるせいであろうか。
イエスが貧しい人々、病人、社会的に差別されている人々に対して真の愛をもって神の国の福音を語ったことを説いており、現代世界において困難に直面している私たちにとって、慰めと励ましのメッセージとなっている。
また、福音がユダヤ人社会から異邦の世界に拡大していく過程において起こる様々な問題を指摘していて、初代教会の姿から、今日に生きる私たちに的確で示唆に富む教訓を与えている。
著者は序論の中で次のように言っている。「ルカの特色として、いと小さき者をどこまでも救おうと追求する神の愛が強く語られます。善きサマリア人、ザアカイ、放蕩息子の物語などなど。ルカは独特な、そして重要な福音書です」。なじみ深い聖書の簡潔な説教は、読者にホッと息をつかせ、イエスの福音のすばらしさを思わせるものがある。
本書の後半のおよそ三分の一にあたる使徒言行録の説教は、イエスの生前、その使命を本当には理解できなかった使徒たちが、ペンテコステの日の出来事を境に、その信仰は大きく変えられたこと、彼らはイエスのわざを継承し、幾多の迫害や困難を乗り越えて、主の証人として活躍するさまが生き生きと語られている。ルカ福音書と使徒言行録の同一著者による記述が連続して救済の歴史の流れの中で語られていることが、説教によって知らされるのである。
「初代教会の姿」と題する説教(使徒言行録二章三六節~四七節、一五〇頁以下)では、ペンテコステ後の使徒たちの働きが、ペトロの説教、聖餐と共同の食事、神への賛美、祈り、深い連帯と一致などを通して具体的に語られている。そこでは天からの新しい力を受けた使徒や信徒たちが喜びをもって主の教会に仕え、互いに仕えあい、教会が次第にその時代の社会に影響を与え始めていることが説かれている。
牧会に明け暮れる多忙な牧師にとり、説教は中心的な仕事であるし、苦労の多いものだが、日常説教に取り組む者にとり、本書は新鮮でさわやかなものを提供する。そして、福音宣教へのエールを送ってくれるように思われる。〝講解説教″という名を聞くだけで、いずれ後で読もうと思ったりもするが、本書は始終平易なことばで語られており、読む者に感動を与えずにはおかない。日曜礼拝の講壇から語られたものであるので、牧師にも信徒にもお薦めしたい一冊である。
喜田川信師と私の関係について一言加えることを許して頂きたい。師が牧会する横浜ナザレン教会に、五十数年前、神学生として三年間出席する機会が与えられた。また、神学校でもご指導を賜った恩師である。不思議なことだが、当時、喜田川師が日曜日毎にルカ福音書から講解説教をしておられたことを思い出している。いつも全力で説教をしておられたという印象が、時が過ぎた今も強く残っている。
(さいとう・きよつぐ=日本ナザレン教団那覇教会牧師)
(四六判・二二六頁・定価一九九五円〔税込〕・教文館)
『本のひろば』(2012年5月号)より