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内容詳細
日本人作曲家のオルガン作品に独創性はあるのか。
明治期に日本へ伝来したパイプオルガンは、戦後に急激な増加を遂げた。それは、日本人作曲家のオルガンへの興味と関心を高めるきっかけとなり、教会音楽の領域外でも作品の創作や委嘱活動を加速する一因ともなった。その一方で、それらのオルガン作品に関する研究は、これまでほとんど行われてこなかった。
本書では、1945年以降に日本人作曲家によって創作されたオルガン作品を蒐集・整理し、演奏技法の観点から考察している。演奏技法については、1960年代以降に現れた新しい演奏技法の内容と特徴を、譜例を元に詳細に解説。さらに作品目録は、254人の作曲家による673作品の情報を収録した、唯一最大のデータベース!
書評
埋没した曲目を巡る簡潔で興味深い調査報告
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佐々木悠著
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日本人のオルガン作品
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金澤 正剛
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日本でオルガンが普及するようになったのは一九六〇年代以後のことであるが、一九八〇年以後ともなると、新しい音楽ホールや教会堂にはオルガンを設置するのが常識とまで考えられるようになった結果、終戦当時にはわずか一二台しか無かったオルガンが、今日では八〇〇台をはるかに超す数に達するという急速な発展を遂げた。それに伴い、当然のことながらオルガンを用いた演奏活動も活発となり、さらには新たに作曲された作品も数多く現れるようになった。中には新しいオルガンのために新曲を委嘱することもあれば、オルガニスト自身が作曲を手がける例もある。しかし残念なことにはそれらの作品の多くは一度演奏されただけで、出版される機会も少なく、そのまま忘れられてしまう場合が多い。それではあまりにももったいないではないかと、自身若手オルガニストとして活躍中の佐々木悠が調査に乗り出し、まとめ上げたのがこの著書である。
事実、現在の段階でどれだけの作曲家が、どれだけの作品を残しているのか、大いに興味あるところである。果たして調査の結果はどのようなものであったのか。独奏曲ばかりでなく、洋楽器や声との合奏、さらには邦楽器とのアンサンブルも含めて、何と二五四人の作曲家が合わせて六七三曲の作品を発表しているというのだから驚く。中でも目立つのは六〇曲を超す新作を手がけたオルガニスト酒井多賀志の活躍であるが、その一方では松本市音楽文化ホールの専属オルガニスト保田紀子の委嘱によって、一九九一年から二〇〇五年の間に三三曲の新作が生み出されたという記録も大いに注目される。
今回の調査を踏まえて、著者は単にそれを報告するだけでなく、簡単ではあるがそれらの作品が生み出された背景や、作品の特徴にまで足を踏み入れて、日本人によるオルガン作品に見られる主な傾向をまとめ、未来へ向けての展望にまで言及している。著書全体の構成は「はじめに」に始まり、続いて四つの章、そして「おわりに」で結ばれているが、すでに「はじめに」の部分で紹介される先行研究の説明からして極めて興味深い。
第一章「歴史的背景」では一九四五年以後今日に至る日本のオルガン界の推移が簡潔に報告される。報告の内容にはオルガンの設置、演奏活動、研究会などの動き、オルガン作品の創作などが含まれるが、それらを一九四五―六〇年代、一九七〇年代、一九八〇―九〇年代、二〇〇〇年代にわけてごく手短にまとめ上げている。それが簡潔であるがゆえに、却ってそこに含まれた結果が明確に伝えられている。例えば一六頁に示された作品数の変化の図を見れば、新しい作品は一九七〇年代に急速に増加し、一九九〇年代に頂点に達するが、二一世紀に入ってからはむしろ足踏み状態になるということが一目瞭然である。
第二章では演奏と創作の現場に目を向けて、オルガニスト保田紀子と作曲家鈴木輝昭にインタビューを試み、日本人作品が生み出される際の問題点を探っているが、その臨場感溢れる報告は実に印象的である。続く第三章「楽譜の考察」では実際に楽譜を集めることの出来た三〇七曲の分析を試み、鍵盤を用いてのクラスターなど、特殊な演奏技法や作曲法に関して、具体的な譜例をあげながら説明しているが、これは特に一般愛好家にとって有難い情報と言って良いだろう。
そしていよいよ第四章で一九四五年から二〇一一年に至る「日本人のオルガン作品目録」が示される。まず作曲家をアルファベット順に並べ、作品は年代順に、作品名、編成、作曲年、出版情報などが表示されている。ただ欲を言うならば、分かっている範囲で良いから初演の場所と日時、特にどのような楽器を対象に作曲されたものであるかの情報も欲しかった。さらに巻末に示された参考文献と録音資料のリストも極めて貴重な情報であるが、録音資料のそれぞれに、どのような作品が含まれているかを示して貰えるとさらに有難かったと思う。
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(かなざわ・まさかた=国際基督教大学名誉教授)
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(A5判・一三〇頁・定価二一〇〇円〔税込〕・教文館)
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『本のひろば』(2012年4月号)より
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