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内容詳細

新時代を彩る神学者たち

第二バチカン公会議開催を促し、現在もカトリック教会に影響を与え続けている知的革新の動きは、どのような思想的背景を持つのか? 前教皇・現教皇をはじめ、激変の世紀をリードした10人の傑出した神学者を取り上げ、現代カトリック神学の潮流を詳察する。簡単な用語解説付き。《翻訳者》前川登、福田誠二、坂口昻吉、神崎忠昭、青木孝子、和田卓三

【本書で紹介する神学者】マリー・ドミニク・シェニュ、イヴ・コンガール、エドワード・スキレベークス、アンリ・ド・リュバック、カール・ラーナー、バーナード・ロナガン、ハンス・ウルス・フォン・バルタザール、ハンス・キュンク、カロル・ヴォイティワ(教皇ヨハネ・パウロ2世)、ヨゼフ・ラッツィンガー(教皇ベネディクトゥス16世)

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書評

第二バチカン公会議開催五十年の節目に振り返る

ファーガス・カー著

前川登、福田誠二監訳

二十世紀のカトリック神学

新スコラ主義から婚姻神秘主義へ

 

阿部仲麻呂

 本書を読むと制度内における各神学者の苦闘が浮かび上がる。ある者は主流になり、またある者は反主流となる。制度を擁護する忠実な従僕となるか、破壊的な開拓者となるか。複数の神学者それぞれの立場が乖離し、学説の微妙な差異による諸思想の拡散と響き合いが二十世紀のカトリック神学を豊かにした。

 しかし、本当は主流も反主流もない。ただひたすら「尊い使徒的伝承を生きぬくかどうか」だけが問われる。言わば、通常の政治的派閥対立の図式でカトリック神学の潮流を俯瞰するだけでは本質を見失うことになる。ところが、やはり人間的な感情や政治的策略が複雑に絡んでもいるわけで、現代のカトリック神学の意義を純粋に見究めることは、かなり困難な作業とならざるを得ない。

 古代から中世にかけての信仰と理性との相互補完的な協調の極意を集大成した十三世紀のトマス・アクィナスの『神学大全』における「神と人間との関係性への問い」(表面上は見えないが、『雅歌』において描かれるような神と人間との深い愛情に満ちた婚姻的な秘義を観想する仕儀が底流に在る)を下敷きにして二十世紀のカトリック神学は発展している(哲学の主題は神と魂であると、四世紀のアウグスティヌスが『秩序論』の中で既に述べていたのと同様である)。

 まず、トミズムを形式論理的に再考して表現し直した新スコラ主義(この流派が聖書研究や歴史的事象の理解を敢えて枠外に置いて、専ら形式論理を重視してマニュアル的な本質論を構築することにこだわった理由は「プロテスタント神学者による聖書主義」や「無神論的科学者による近代主義のデータ分析主義」とは異なる独自の道を切り開こうと志したことによる。しかし皮肉なことに新スコラ主義は客観的な本質を純粋な形式として構造化しすぎたために近代主義と同じ軌道を進むことになったのである)が現代のカトリック神学の主流となり、その動向の限界を乗り越えようとしたシェニュやコンガールが旺盛な批評活動を展開し、やがて「新神学」が台頭し、ド・リュバックやダニエルーらが聖書学や歴史的事象分析の手法を取り入れつつも血の通った現場的な実践愛的思索を提示するに至った(フランスの神学は聖書学と教父学を土台として展開された)。

 しかし、その後、新スコラ主義と新神学とは壮絶な攻防戦を繰り広げ、制度運営側である教皇庁において新スコラ主義的動向が根を張ったために、新神学は矯正を要する異端説として断罪される。もちろん、新スコラ主義の限界を是正すべく努めたトミストとしてスキレベークスやラーナーやロナガンを忘れてはならない。他に、教父思想を美学的かつ演劇学的に表現し直したバルタザールや、プロテスタント神学の長所を正当に評価したキュンクの活躍も異彩を放つ。

 ところが、新スコラ主義および新神学という二つの動向を相互補完的に大事にしつつ、現代世界に向かって開放的に対話していくと同時に伝統的な信仰感覚を取り戻そうとする調和主義の教皇ヨハネ二三世の登場により、事態は急展開を遂げる。一九六二年、第二バチカン公会議の開催である。教皇を支えたカロル・ヴォイティワやヨゼフ・ラッツィンガーも後に教皇に就任して第二バチカン公会議の精神を推進している。こうして、カトリック教会は刷新されつつある。二〇一二年に、ちょうど第二バチカン公会議開催五十周年を迎えるカトリック教会にとって本書が邦訳されたことは慶事である。しかも、プロテスタント書店から刊行されたこともエキュメニズムの視座から見れば快挙と言える。

 本書の構成は明快そのもの。端的に言うと、全三幕の思想活劇である。つまり、「第二バチカン公会議以前の歴史的背景の解説」に始まり、「第二バチカン公会議に影響を与えた十人の神学者それぞれの人生と思想」を順次検討し、最後に「第二バチカン公会議以降のカトリック教会の動向と展望」を示している。

 翻訳者および監訳者は東京フランシスカン研究会のメンバーたちである。知性的かつ思弁的なトミズムとは異なる意志的かつ実践的なフランシスコ会神学の流れを汲む研究者たちが、思想傾向の異なる流派の著作を丁寧に読み込んで邦訳したのは興味深い。相手の言い分を尊重して、その思想的な宝を学ぶ「謙虚な姿勢」こそ、まさに聖フランチェスコや聖アントニオや聖ボナヴェントゥラが真摯に目指した愛情深き信仰生活の内省の方向性に他ならないからである。

(あべ・なかまろ=日本カトリック神学会評議員/上智大学神学部・日本カトリック神学院兼任講師)

(A5判・三九二頁・定価三九九〇円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年1月号)より