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内容詳細

旧約聖書外典偽典が書かれた時期の社会状況と、各文書の内容・年代・思想等の特徴を解説する。

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書評

基本的知識と正確な学問的情報が得られる

土岐健治著

旧約聖書外典偽典概説

小友 聡

本書は、古代ユダヤ教思想史の権威・土岐健治氏の最新刊である。『旧約聖書外典偽典概説』というと、多くの読者はL・ロストの『旧約外典偽典概説』を思い出すだろう。これは一九七二年に土岐氏と荒井献氏との共訳で出版され、旧約外典・偽典に関する画期的な概説書として広く読まれた。けれども、すでに四〇年近い年月が経って版元品切れとなり、また現在の研究史的状況を踏まえた大幅な補填が必要となった。そこで、このたび土岐氏による著作として新たな概説書が刊行されたわけである。

旧約の外典や偽典というと、かつてはマニアックな関心事とされたけれども、今は決してそうではない。言うまでもないが、外典(旧約外典と新約外典がある)とは正典の外に置かれた書であり、偽典とは外典のほかに正典に入らなかった文書である。とりわけ、旧約外典は新共同訳聖書の「旧約続編」として親しまれ、また外典と偽典を含めた『聖書外典偽典』が一〇冊のシリーズで教文館から出版されている。死海文書やナグハマディ文書なども聖書学の重要な資料となり、旧約外典や偽典の知識は聖書学ではすでに一般的な常識と言ってよい。もちろん、正典としての旧約聖書が最も重要だが、正典成立前後に書かれ、教会によって保存されてきたこれらの膨大な歴史的文書は今日、旧約聖書成立後のユダヤ教の思想的発展を知るのに有益なだけでなく、新約聖書成立の背景を知る不可欠の情報源である。たとえば、ダニエル書やエステル記には実は物語の続きがあり(「ダニエル書への付加」、「エステル記への付加」)、また第二マカベヤ書(マカバイ記二)からは新約聖書につながる復活信仰を見出せる。本書はそういった旧約聖書の外典と偽典の基本知識を提供してくれるありがたい概説書である。

本書の内容を簡単に紹介しよう。本書は四部構成になっている。前半はヘレニズム・ローマ時代のユダヤ民族史の略述である。後半では旧約外典と偽典について、その諸文書の一つ一つが丁寧に概説される。概説の仕方は内容、伝承、成立年代、思想という順序で、おしまいに外国語参考文献が挙げられる。手際よく整理されて概説がなされ、最近の研究史的状況にも踏み込む。著者土岐氏はいわゆる俗説には従わず、学問的に誠実に事柄を取り扱い、ストイックなまでに簡潔な説明をする。本書で特徴的なのは、外典中の文書として詩編一五一編が取り上げられることである。これは、ギリシャ語七十人訳聖書の写本に第一五一番目の詩編が含まれているからである。聖書学ではすでに知られていることではあるが、本書によって初めて日本語で紹介がされた。もう一つ、本書では、「聖書古代誌(偽フィロン)」が偽典に含まれる文書として紹介されている。

本書の出版は大いに意義があると評者は思う。まず、本書によって旧約聖書外典・偽典について基本的知識と正確な学問的情報を得ることができるということだ。類書が少ないだけに、聖書学を学ぶ者にとって本書は教科書のように用いられるに違いない。また、本書によって啓発された読者は原典を読んでみたいという思いに駆られるだろう。読者を概説だけで満足させず、原典に向かわせるガイドブックとして本書は意義を有する。さらに、本書によって初期ユダヤ教とキリスト教の歴史的・思想的な関係について改めて考える視点を与えられる。著者土岐氏にはすでに『初期ユダヤ教と聖書』や『初期ユダヤ教の実像』など多くの著作がある。本書を叙述する著者の思索から刺激を受けて、この分野の研究を志す者が出てくることを期待する。

最後に、評者の身勝手な意見。初学者や一般信徒のために、次の版では邦語の参考文献を掲げてほしい。この分野では秦剛平氏の著作などは一般信徒に触れる機会が多いと思われるからだ。また、死海文書についてほとんど触れられていないが、やはり読者は知りたいと思うに違いない。蛇足だが、書名などは新共同訳に合わせて表記されるとありがたい。

(おとも・さとし=東京神学大学教授・中村町教会牧師)

(A5判・二五二頁・定価三三六〇円[税込]・教文館)

『本のひろば』(2010年7月号)より