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内容詳細

子どもたちへの“ まなざし” を考察する

明治期に女性宣教師が開始した日本のキリスト教保育を支えてきた、キリスト教的精神を基盤とする彼女らの保育思想は、日本人保育者によってどのように継承されたのか。その展開を源流から通史的に実証するとともに、聖和幼稚園・北陸学院幼稚園で教育実践を共にした立花富と南信子、および米国長老教会宣教師アイリン・ライザーらの記録を分析することで戦時下のキリスト教幼児教育の実態を把握し、戦前から戦後にわたって通底する保育観・教育観の連続性と意義を解明した画期的な研究。

 

《著者紹介》熊田 凡子(くまた・なみこ) … 石川県生まれ。金沢大学大学院人間社会環境研究科博士課程修了。愛香南部幼稚園教諭、北陸学院大学人間総合学部助教などを経て、現在、江戸川大学メディアコミュニケーション学部准教授。共著に『現場の視点で学ぶ保育原理』(教育出版、2016 年)、『マンガとアクティブ・ラーニングで学ぶ保育内容総論 第2 版』(保育出版社、2018 年)、『道徳教育の理論と指導法』(ヴェリタス書房、2018 年)、『ミネルヴァ教職専門シリーズ1 教育の原理』(ミネルヴァ書房、2021 年)、『100 年前のパンデミック』(新教出版社、2021 年)ほか。

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書評

<本のひろば2022年6月号>

キリスト教保育の歴史的意義を示す
〈評者〉片山知子

 原稿依頼を受けた三月初め、よもやこの時代にウクライナとロシアとの地域紛争が拡大して戦争状態となり、日々の報道に数多くの粗末な十字架の墓標が映し出される状況になるとは予想もしなかった。本の紹介文の冒頭には相応しくないと思うが敢えて記す。
 それは、子どもの保育という営みが戦争とは対極の平和な生活の保障を前提とするからである。保育思想の背景には子どもを愛おしみ尊重しようとした人々の存在がある。COVID-19のパンデミックが収束せずに二年以上経ち、更にこの戦禍で多くの子どもたちがいのちの危機に直面させられていることに心痛め、一日も早い解決を求め祈りを合わせたい。
 さて、本書は保育実践者から研究者として歩まれている熊田凡子先生がご研究を博士論文にまとめられた著書である。内容は、これまで発表分析されなかった日本のキリスト教保育の一次史料を基に、キリスト教保育が日本の幼児教育へ果たした歴史的意義を多くの視点を用いて示されたものである。
 日本の近代の幕開けの中、草創期のキリスト教保育事業は女性宣教師の働きとして始められた歴史を持つ。本書ではこれまでに出された文献、資料、史料を網羅してキリスト教保育思想と日本の保育との関係性を明らかにしながら、これまで十分検証されずにいた領域に注目して論じている。日本のキリスト教保育の実践者として大きな影響を与えてきた南信子の存在に端を発し、現存する保育実践の記録等を分析した研究の果実である。
 日本のキリスト教保育史に関する先行研究には小林恵子先生の『日本の幼児教育につくした宣教師』上・下(キリスト新聞社、二〇〇三・二〇〇九年)の労作があり、歴史的な興味を深めることができた。それから一三年を経て、熊田凡子先生が読者に再び歴史の扉を開く喜び、心躍る経験を与えて下さった。
 本書を手にした方は、頁数の多い書籍で読了するのを躊躇するかもしれない。実際、参考文献リスト、巻末史料の多さに驚くだろう。しかし、目次に記された各章のタイトルはどれも興味深く、特に一章から六章までは、どの章から読み始めても十分にキリスト教保育の実践の豊かさ─先進的な保育に誇りを持ち励まれた保育者たちの姿、時代を反映した保育の実相、今も共感できる保育理念、子どもの生活とその傍らにある保育者の工夫や思い─に触れることが出来る。
 特にキリスト教保育界での戦時下の保育についての検証はこれまで十分なされたとは言えない面がある。本書で新たな事実も記され、苦難の時代における当時の保育者たちの実情の一端を考えることが出来た。
 なお、保育実践者の記録は保育研究の分野で近年注目されており、興味が尽きない。本書でも複数の報告が扱われており、本書の構成として不可欠であることは言うまでもないが、立花富と南信子研究がやや分散したようにも思われた。今後のご研究に期待したい。
 私には保育関係の学会や養成校同士の交流の中でキリスト教保育が通奏低音のように響きあう豊かな出会いを得ることがあり、熊田凡子先生との出会いもそのような不思議な導きによる。
 重厚な読後の感想はキリスト教保育の恵みを改めて再認識したことである。感謝。

片山知子(かたやま・ともこ=[一社]キリスト教保育連盟理事長・和泉保育園園長)