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内容詳細

今こそ、絵本と物語を通して 子どもたちに〈生きる歓び〉を!

大人の方たちには〈魂の活力〉を!

編集者から児童文学作家となった著者が、キリスト教幼稚園の園長に! 本気になって園児たちと遊ぶ日常生活の記録、祈りの詩、子どもと絵本・物語について語った連載をまとめるエッセイ集。

〈本好きの子どもを育てるためのコツ〉を惜しみなく伝授しつつ、「絵本と物語を読むことは、状況や時代、年齢を超えて〈いつもここにあるよろこび、楽しみ〉」であることを熱く語ります!

 

〈目次と内容〉

Ⅰ 子どもたちの息吹に触れながら――オリエンス宗教研究所「こじか」連載ほか、19篇

Ⅱ 今日の祈り――『おいで子どもたち』(日本聖公会)ほか、5篇

Ⅲ 愛書探訪――読売新聞連載ほか、21篇の読書案内

Ⅳ 子どもを本の世界に導くために――福音館書店「母の友」連載より11篇+1篇

 

*著者紹介

斎藤惇夫(さいとう・あつお)

1940年新潟市生まれ、小学校1年より高校卒業まで長岡で過ごす。立教大学法学部卒業。福音館書店の編集者として子どもの本の編集に長く携わった後、2000年より作家活動に専念。2007年より、河合隼雄氏を継いで「児童文学ファンタジー大賞」選考委員長を務める。2017年4月より日本聖公会浦和諸聖徒教会を母体とする麗和幼稚園園長。講演や著作を通して、子どもの本のあゆみを伝え、子どもたちに本を読んでやることの大切さ、選書の大切さを訴える活動も続けている。

著作 『グリックの冒険』『冒険者たち―ガンバと15ひきの仲間』『ガンバとカワウソの冒険』『哲夫の春休み』(すべて岩波書店)、『河童のユウタの冒険』福音館書店ほか、講演録『わたしはなぜファンタジーに向かうのか』教文館など。

*カバー画・挿画 出久根育

 

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書評

――本書を推薦します――

大人が子どもから学ぶのに必要な柔軟な心

池澤夏樹(詩人・作家・翻訳家)

逆上がりの練習をしている子を見ていると、別の子が後ろから忍び寄って頭からシャベル一杯の砂をかける。被害者は園長先生、りっぱな後期高齢者。

たくさんの優れた絵本や子どもの本を世に送り出した編集者であり、自身もいくつもの名作を書いた作家である。それがじかに子どもに接する場に放り込まれる。

ぜんたいを貫いているのはイノセンスという価値だ。幼い子にはそれがある。保持するためには導きが必要であり、最良の手段が本。だから本書は読書への誘いとしても役に立つ。

 

子育てに保育にもっと物語を

中村柾子(私立豊川保育園元園長、絵本研究家)

幼稚園の子どもを前に、笑い、恥じらい、むきになり、だまされる斎藤さん。誰よりも子どもを愛し、子どもの目で子どもの本を語る斎藤さん。体に深く刻まれた物語体験のなんと豊かなこと。

斎藤さんは言う。子ども時代の愛読書が、大人になってもなお輝きを放つなら、それを子どもの本と呼ぼう。本好きの子にするために用意されたレシピは、具体的ですぐに役立つ。それらの本を一緒に読み合えば、子育ても保育も、もっと楽しくなる!

 

<本のひろば2022年1月号>

おとなの心を自らの子ども時代に向かわせる
〈評者〉笹森田鶴

 著者はあの「ガンバの冒険」シリーズの児童文学者であり、福音館書店の編集者でもあった方だ。けれども子どもたちは、物語は知っていても「斎藤惇夫」という名を知らない。そのような子どもたちの世界に喜寿を目前に飛び込み、一瞬一瞬の出来事の積み重ねがつなぐ子どもたちの世界にいることを幸せだと著者は思っている。そして時に子どもたちから「園長」と呼び捨てにされることを楽しみ、子どもたちも毎日一緒に本気で遊んでいる眼の前のおとなへ親しみと平等性をもって接している。
 浦和諸聖徒教会を母体とする麗和幼稚園での日々の出来事や保護者向けの文書による、Ⅰ章「子どもたちの息吹に触れながら」から本書は始まる。おとなになって忘れてしまっていることの発見に心動かされ、うっかり子どもと張り合ってしまう。子どもたちと「遊んで、遊んで、遊んで、遊び死ななかったのが不思議なぐらい」に過ごしたいと願い、子どもたちに騙されたりうろたえたりしながら、子どもたちの心の中の出来事に近づき、わずかでも触れることを喜びとする様子が描かれている。
 Ⅱ章「今日の祈り」ではⅠ章でのそのような出会いの中で紡がれた祈りが柱となっており、Ⅰ章からの祈りの続編やまとめにも思える。物語を通して子どもたちの心や体が開放される世界こそが神の世界だと確信し、子どもたちが絵本の世界と現実の世界の両方を生きていくことを望み、そのためにずっと昔から祈り続けていた情熱が伝わってくる。著者にとって子どもたちの息吹は神の息吹なのだ。
 後半のⅢ章、Ⅳ章では園長就任以前に書かれた文書が集められており、読み進めていくと時代を遡っていく。本書の世界観が前半にあり、後半の部分はその世界観に辿り着くためのプロセスを読者が追う構成になっている。
 Ⅲ章「愛書探訪」では、子どもたちの世界が時間と空間を越えて昔話や神話や物語によって広がっていくための絵本や物語についての解説や紹介がなされる。Ⅳ章「子どもたちを本の世界に導くために」では、タイトル通りに子どもたちを本好きにするためのおとなの心構えやおとながするべきことを指南する。まっすぐに明快に、それぞれの物語の深淵を、また物語の出来事や情景や心情におとなが心震わせることによって、子どもに読み聞かせることの意味や内実が伴うことを熱っぽく伝えてくれる。人生における喜びや楽しみと同様に苦痛や別れの悲しみが大きいことを考えると、子どもたちが安心して物語の旅に出かけるためには親しいおとなたちの介添が重要であるとも励ます。
 本書は自然とおとなの読者の心を自らの子ども時代に向かわせる。一つ一つの園での出来事に心揺さぶられ、泣いたり笑ったりしながら読み進めてしまう。いつもは思い出しもしない子どもの頃のきらきらしたかけがえのない一瞬が、どれほど愛と調和と冒険に満ちた絶対的なすばらしい世界であり、今の自分を支えているかを思い出させるのだ。そして子どもの心にとって大事なものは、すべての人間の心にとって大事であることを教えてくれる。もう一度本書に取り上げられた物語に自ら触れたいという衝動を起こさせる。今のこの時代にこそ読むべき一冊である。
 絵本の絵が物語を補完し、また原風景へと誘い、静謐、高雅、清廉を伝えると著者は言う。描き下ろしの出久根育さんのカバー画と挿画もこの本のすばらしさに加えられる。

笹森田鶴(ささもり・たづ=日本聖公会東京教区司祭)