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内容詳細

「恐れは変わりて 祈りとなり
   嘆きは変わりて 歌となりぬ」

苦難にかき消されることのない喜びが、ここにある! 混迷した現代社会で、さまざまな重荷を負って生きる人々の心に届くみ言葉を語り続け、晩年自ら病を得た著者がその身をもって語り抜いた、信仰と希望の講話集。

『水平から垂直へ』、『聖書に聴く「生と死」』に続く第三作。2016年5月~2018年5月に日本キリスト教文化協会連続講演会で語られ好評を博した、旧約から4回・新約から5回の聖書講話を収録。

【目次】
重荷を負う者
み旨を問う
すべてのことに時がある
主は与え、主は奪う
地に落ちた一粒の麦
ただ信仰によってのみ(宗教改革五〇〇周年記念)
苦難を耐え忍ぶ
イエスに向かって手を伸ばす
イエスに向かって上着をまとって
  湖に飛び込んだペトロ

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書評

<本のひろば2021年11月号>

共に苦しみつつ励ます良き友となる一書
〈評者〉髙橋 貞二郎

 人生で苦難を避けて通ることはできない。本書は、苦難に悩み、悲しむ全ての人に贈られた聖書講話集である。読者は、どのような時にも自分に注がれる神の愛のまなざしに気付き、変わることのない希望と平安に満たされることだろう。
 著者は、神学者にして教育者、牧師であられた船本弘毅先生である。船本先生は、2010年6月から日本キリスト教文化協会の連続講演会をご担当された。これらの講話は、既に『水平から垂直へ─今を生きるわたしたちと聖書』『聖書に聴く「生と死」』として刊行されているが、今回は、三冊目の講話集となる。本書には2016年5月~2018年7月に行われた九つの講話(旧約聖書から4回、新約聖書から5回。10回目の要旨は「あとがきに代えて」に収録)が収められている。
 「人生の苦難と希望」というテーマで講話を始めるにあたり、著者は「聖書は人間のこの世の生が多くの苦難に満ちていることを直視しながら、ただそのことを否定的に、宿命的に捉えるのではなく、むしろ積極的にすべてを受けとめ、そこに神のみ旨を問おうとしているところに特色がある」(一四頁)と述べる。そして「困苦(くるしみ)にあひたりしは我によきことなり 此によりて我なんぢの律法(おきて)をまなびえたり」(詩編119編71節、文語訳)や「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」というローマの信徒への手紙五章の聖句を引用し、それらを前提、土台として話を展開していく。
 聖書講話なので、それぞれの回ごとに主題となる聖句があるのだが、著者はすぐに聖句の解説には入らない。導入部分で、その時々に話題となっていたことや、自分の体験談などを語ることで、読者を自然と聖書の世界へ導いていく。その上で、聖句を分かりやすく、的確に解説する。また解説の中では、マザー・テレサやディートリヒ・ボンヘッファー、石川啄木などの言葉も紹介し、それらが聖書の時代と現代との懸け橋となり、聖書の言葉が今を生きる読者へのメッセージとなっていく。
 特記すべきことは、著者が講演期間中にがんを患って、数回に及ぶ手術を受けられ、その苦難の中から講話をされたことである。それ故に、語られる言葉に重みがあり、説得力がある。最後となった第34回目の講話では、愛唱讃美歌の一節が紹介される。それは「恐れは変わりて祈りとなり嘆きは変わりて歌となりぬ」(『聖歌』498番)である。著者が目指した生き方の一つを示した歌詞であろう。この講話をされた一か月後、著者は天に召される。そのような苦難の中で、聖書を語り、祈り、讃美し、信仰による希望を伝え続けた著者に尊敬の念を抱かざるを得ない。
 「苦難を避けられない、わたしたち人間です。年齢と共に、思いがけないことがわたしたちを苦しめます。しかし、復活の主がわたしたちへの愛のまなざしを注ぎたもうことを信じ、生きていきたいものです」(二一二頁)という著者の言葉が、心に響く。本当にその通りだと思う。一人でも多くの方に読んでいただきたい一冊である。

髙橋貞二郎(たかはし・ていじろう=東洋英和女学院副院長)