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内容詳細

歴史を生きた神学者の群像

多彩にして曲折に富む2000年の神学史の中で、特に異彩を放つ古典的代表者を精選し、彼らの生涯・著作・影響を通して神学の争点と全体像を描き出す野心的試み。下巻では正統主義の時代から20世紀に至るまでの17名の神学者を紹介する。

【本書で取り上げられている神学者】

ヨハン・ゲアハルト
リシャール・シモン
フィリップ・ヤーコプ・シュペーナー
ヨハン・ヨアヒム・シュパルディング
フリードリヒ・シュライアマハー
ヨゼフ・クロイトゲン
セーレン・キルケゴール
ユリウス・ヴェルハウゼン
アドルフ・フォン・ハルナック
アルフレッド・ロワジー
エルンスト・トレルチ
ルドルフ・ブルトマン
パウル・ティリッヒ
カール・バルト
ラインホールド・ニーバー
H. リチャード・ニーバー
カール・ラーナー

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書評

近代と格闘した神学者群像

栗林輝夫

 本書は『キリスト教の主要神学者』二巻のうち、近代以後を扱う下巻で、取り上げられているのは、副題には「リシャール・シモンからカール・ラーナーまで」とあるものの、近代との対比の必要からだろう、一七世紀の正統主義者ヨハン・ゲアハルトから始まって、総勢一七人の「古典的代表者」である。
 編者のグラーフはミュンヘン大学神学部で教鞭を取る傍ら、ドイツ福音主義教会だけでなく、欧州の多元的文化、宗教のグローバル化などのトピックでジャーナリズムに多くを発信してきた著名人である。
 さて本書の主要神学者の選定には、グラーフの「独自の神学史観がよく反映されている」と監訳者の安酸氏が解説されているとおり、総花的な前シリーズとは一線を画し、神学が近代といかに格闘してきたか、キリスト教ヨーロッパが啓蒙主義以後、どうすれば精神的共同体を維持しえるか、というトレルチ的問題意識で貫かれている。神学者の誰を「古典」とするかは編者の判断が大きく働くが、カトリック神学に「近代性を切り拓いた」(四一頁)シモンから始まって、同じくカトリック教会の「シンボル的人物」(三五七頁)としてあるラーナーで終わることには、実際グラーフの一貫した問題意識を垣間見ることができる。「これまで顧みられなかった若干名の重要な神学者を組み入れ」(編者「日本語版へのあとがき」)たとあるが、実に前企画の六割の神学者が消えるという大幅な組み換えには編者の強い主張が裏打ちされている。
 新たに選入されたゲアハルトは日本では本書ではじめて読むという人がほとんどだろうし、またシュペーナーは、ドイツ敬虔主義の研究者でもなければ、名前くらいしか馴染みがない。常道からすればリッチュルは選ばれてしかるべきだし、敬虔主義の系譜でもツィンツェンドルフではなくなぜシュパルディングなのか、キルケゴールが採られてなぜヘーゲルが選に漏れるのかと問いたい人もいるだろう。近代の超克という観点で見ればバルトが選ばれることは頷けても、ボンヘッファーが入らないのは納得できないという者もいるだろう。評者個人の興味としても、モダニストとしてのティヤール・ド・シャルダンを、福島原発事故以後のコンテキストでもって読んでみたい気もする。東洋哲学でキリスト教に独自の解釈を施した南インドのアパサミが外れたのは納得できても、大御所のバウアーすら落として複数の神秘主義者を紹介するというのは、古プロテスタンティズムと新プロテスタンティズムを区別して、一七世紀のキリスト教人文主義者やスピリチュアリステンをもって近代個人の先駆けとしたトレルチの類型論からは十分に納得がいく。アメリカのニーバー兄弟、とくにリチャード・ニーバーが代表的神学者に新しく選ばれたことも、彼の遺訓を継いだイェール学派にとって、近代とキリスト教というトレルチ的な課題が中心的なことを思えば頷ける。トレルチが格闘した問題はアメリカでは、キリスト教の真理要請とポストモダンの多元主義とをどう調停するかというポスト・リベラル神学の問題となって争点化した。そうしたモダニズムの評価、キリスト教の絶対性、多元主義時代のキリスト教などの問題枠で読めば、クロイトゲンといった新スコラ主義の伝統墨守派の神学者がわざわざ紹介されるのも成程と合点が行く。
 「信頼のおける神学研究へのガイドブック」という監訳者の紹介はその通りである。神学教師の末席にある評者の印象としては、本書は少なくとも大学院前期レヴェルの素養がないと咀嚼できないと思う。しかし、いつまでもウィキペディア程度の常識に満足していてはならないのも確かで、神学が近代と格闘してきた意味と問題の深さを知る点では実に有益な教科書である。日本語で読める一次文献、二次資料が添えられているのも有難い。訳者に感謝して、本書が近/現代の欧州神学の優れた概説として活用されることを望みたい。

(くりばやし・てるお=関西学院大学教員)

『本のひろば』(2015年2月号)より