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内容詳細

突然襲った脳卒中、そこからの回復とは

脳卒中リハビリの専門家として治療する立場にあった著者(言語聴覚士)が、発症から職場復帰までの体験を克明に記した貴重な記録です。倒れた時に本人はどういう状況で、何を必要としているのか、リハビリの時に周囲はどのようなサポートをすればよいのか、等、具体的にわかりやすく説明しています。誰もがもっている発症の可能性にいかに備えるか、また身近な方のリハビリにどのようにサポートするか等、読んでおくと役立つことがたくさん書かれています。

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書評

専門家が自身の回復過程を克明に描く

鎌野善三

 本書は、脳卒中による後遺症を改善するために奮闘しておられる方々とその家族に、どれほど大きな励ましとなることでしょうか。さらにその他の様々な理由で、懸命にリハビリをなさっている人々、あるいは病と闘っている人々にも、「神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます」という聖書の言葉は本当ですよ、と力強く語っているのです(五五頁)。
 著者は、神戸大学大学院保健学研究科客員教授で医学博士。失語症を始めとする高次脳機能障害の専門家として三〇年あまり臨床研究をしておられました。しかし二〇〇九年七月、脳梗塞を発症し、高次脳機能障害と左手足の麻痺を抱えることになりました。著者の表現を借りると「ミイラ取りがミイラになった」のです。しかし、これを神からの試練として受け取った著者は、自分の回復過程を専門家として克明に記録しました。昨年、専門分野を扱う医学書院から出版された『「話せない」と言えるまで』は、患者と医療従事者の双方の目を開かせる画期的なものとなり、多方面から注目をあびていると聞きます。
 本書は、医学専門書には記せなかった多くの感動的な出来事を描いています。「私は有意と思われるたくさんの偶然(=神様の配慮)を本書中に述べることで神様に感謝したいのです」(五頁)というところをはじめとして、神様を純粋に信頼する心があちこちに見受けられます。読んでいる私も、胸から熱いものが何度もこみあげ、著者をこのように用いてくださっている神に感謝しました。
 本書は、「青天の霹靂」「急性期」「回復期」「復職準備」「復職」「退職後」の六章からなっています。愛するご家族と別れて神戸大学に単身赴任し、忙しく研究と教育に励んでいた著者が神戸三ノ宮の繁華街で突然倒れ、救急車で近くの病院に運ばれる様子を述べた最初の章は、さながらミステリー小説の冒頭のようです。偶然と思えるこの出来事の背後にも、数え上げると一〇項目にも及ぶ神の配慮があったことを著者は明記します(七九頁)。この時に、自分の症状を研究者として冷静に分析し、これが大脳の右半球損傷であろうと見当をつけていたのです。
 著者が勤める大学の所在地にちなんで著者が命名した「チーム名谷」は、急性期、回復期を通じて大きな助けとなったことには感動しました。これは、医学部保健学科に属する専門家集団で、多職種間共働の実践の場になったようです。また、「見えているのに意識に上らない」という「無視」の病状が自分にあったゆえに、患者の気持ちを初めて理解できたという経験も、今後の研究活動に資するに違いありません。
 優れた治療、ご主人の支え、著者の懸命なリハビリにより、著者は一〇か月という短期間で復職。左手に障害のある中で単身生活をしつつ、授業とともに一〇名の大学院生の論文作成の指導をし、全員の学位取得が実現したのです。その学位授与式で皆が感涙にむせたことは言うまでもありません。
 二〇一一年春、単身での生活に限界を感じた著者は、惜しまれつつ退職し、ご主人と共に東京での生活を再開されました。現在もリハビリに励みながら、「三鷹高次脳機能障害研究所」を運営し、患者の気持ちを理解できる治療者として労しておられます。また講演要請に応えて、日本各地を回っておられます。
 本書の最後にご主人の一文が載っていました。「連添いに起こった脳梗塞は、その姿勢、性格は連添いから奪わなかった。リハビリ中は、授業に役立てようと自分の記録を詳細に残してほしいと要望していた。......利き手が動かず、発話障害がみられ、決断力が鈍ったかもしれないが、知的能力と共に人間としては何も変わっていない。それが最も有難い神様のご配慮であった」(一七三頁)。そのご主人は、今、著者を支えて全国各地の講演会に飛び回っておられると伺っています。

(かまの・よしみ=日本イエス・キリスト教団池田中央教会牧師)

『本のひろば』(2014年5月号)より