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内容詳細

魂の救いと体の癒しを求めた伝道者

18世紀英国でメソジスト運動を指導し、伝道活動を行うとともに、医学書の出版や無料診療所の設立、病人の訪問活動、貧困者のための無利子ローンの企画など画期的な社会支援活動を行ったウェスレー。魂のみならず、体も含めた人間全体の救いを考えた彼の思想と生涯から、今日の私たちの信仰と生き方を問い直す。

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書評

魂の救いと体の癒しを求めた伝道者

野村 誠

 本書は、ウェスレー・メソジズム研究者として著名な清水光雄先生が、四冊目の研究書として出版された書物である。
 一冊目は、米国における著者の博士論文をまとめた『ジョン・ウェスレーの宗教思想』(日本基督教団出版局、一九九二年)。二冊目は、静岡英和女学院短期大学の学生にメソジストの思想を伝えたいとの願いから生まれた『ウェスレーの救済論――西方と東方のキリスト教思想の統合』(教文館、二○○二年)。そして、同学院四年制大学新設に合わせて誕生したボランティアセンターを拠点に展開された大学の諸活動の中から生まれた『メソジストって何ですか――ウェスレーが私たちに訴えること』(教文館、二○○七年)が、第三冊目である。その中心テーマ「愛の実践」について、一般信徒向けに、ウェスレーの時代の社会問題を解き明かしながら、尚且つ、今日的課題に目を向けさせてくれるのが、本書、『民衆と歩んだウェスレー』である。
 さて、本書の舞台は十八世紀英国。産業革命期の重労働にあえぐ貧しい労働者の傍らには富を手にした富裕層も救いを求め、 「メソジストは金持ちと貧困者との混合体」であった。故に、 「貧富の亀裂を起こさないために」ウェスレーは尽力した。ウェスレーにとっては「どの階層の人も神の子」であり、たとえ貧困者であっても、レプタ二枚を捧げたやもめのごとく、自分よりもさらに貧しいものを支援することが求められた。ウェスレーにとって、貧困問題は、最低賃金とか国家の経済問題ではなく、神と人とを愛する「良心の問題」であった。 「愛と共感はメソジスト神学の心臓部」で、富者も貧者も「すべてのメソジストは他者の霊的生活のために協調的支援の責任を果たすこと」が期待されていた。
 ウェスレーは、国教会の聖職者でありながら、貧困者や病人への支援活動に乏しい国教会を内側から改革・再生するためにメソジスト運動の指導者となった。彼は多くの人々に神の愛を語り、その結果、沢山の貧しい聴衆がメソジストに入り、それゆえ、貧困者の生活や健康を支えるためのあらゆる取り組みが必要不可欠になっていった。
 貧困者の生活を支える為にまず必要となるのが食料と燃料。その為の貧困者支援金を管理・運用する班会と組会を設立。組会指導者は定期的に地域の病人を訪問し、魂と肉体の健康増進に役立つ助言が出来るように尽力することが求められ、財政的業務を担当する執事は、金銭面での正確さや注意深さが求められた。こうして地域の支援ネットワークは整備されていった。
 ウェスレーにとって、「貧困者への伝道」という生涯にわたる使命を果たすために起こり得るあらゆる課題を克服する為に、乗馬での読書が役立った。彼は、多読・速読の名人だった。
 医者でない彼が『根源的治療法』を出版し、「安価で、安全で簡単な治療」を貧者に提供することができたのは、多くの医学的資料を読破していたのみならず、ガリレオ、ベーコン、ニュートンなどの近代科学をはじめ、薬学や栄養学にも造詣が深かったから可能であったと言えよう。
 同様に、炭鉱夫の子供の救済の為に、キングスウッドに学校を設立した時にも、又、「無利子ローン企画」によって貧困者の小ビジネスをたすけることが出来たのも、その根底には、人間や社会・経済への深い理解と洞察があったからである。
 十八世紀英国において、ウェスレーが、キリストに倣って、病者を見舞い、寄り添い、諸科学の力も借りて、魂と肉体を癒し、社会支援のネットワークを広げていった精神と方法を学んだ時、
 「あなたがたは、どう生きるのですか?」
ウェスレー研究家、清水光雄は、最後に、鋭く、我々に問いただしているように思われる。

(のむら・まこと=共愛学園前橋国際大学准教授)

『本のひろば』(2013年12月号)より