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内容詳細
21世紀のグローバルな危機的状態に直面した今、境界を越え〈他者のための存在〉となることを目指し、歴史を学び、現代を読みとくために20人の研究者が試みる、多角的なアプローチ。
◆2013年に学院創立150年を迎える明治学院。
本書は、1952年発足の「カルヴァン研究会」を嚆矢とする
大学キリスト教研究所の所員・名誉所員20名の論文・エッセイをまとめたものである。
◆歴史研究をはじめ、キリスト教内外の研究、キリスト教実践現場のリポートなど、
その内容は多岐にわたる。
笨、笨、笨、笨、笨、笨、笨、笨、笨、笨、
〈目次>
講演
大西 晴樹「米国長老・改革教会宣教師ヘボン、ブラウン、フルベッキの功績
――W. E. グリフィスによる伝記から」
第1部 救いと正義――古代・中世社会と宗教
成瀬 武史「ロゴスの磁界――夕日の色や犬の鳴き声はだれが決めるのか?」
千葉 茂美「デルポイの神託をめぐって――古代宗教の一断面」
久山 道彦「オリゲネスにおける戦争倫理学――古代キリスト教における宗教的生の一断面」
手塚 奈々子「パドヴァの聖アントニオの説教における祈りと回心」
齊藤 栄一「夜の復権――ヨーロッパ美術における月の諸相」
第2部 思想と信仰
森井 眞「今、いや、常に、キリスト教は問われている――ジャン・カルヴァンのこと」
佐藤 寧「『沈黙』と信仰そして愛」
新倉 俊一「大いなる記号――ブレイクと大江文学」
中山 弘正「キリスト教とマルクス経済学」
橋本 茂「”Jedem das Seine”を巡って――ひとつの正義論」
柴田 有「自然にたいする罪」
第3部 近代国家とキリスト教――歴史と省察
播本 秀史「万人救済説――新井奥邃と内村鑑三を中心に」
加山 久夫「賀川豊彦と公共の神学」
遠藤 興一「天皇制慈恵主義とキリスト教」
渡辺 祐子「キリスト教伝道と国家――不平等特権「寛容条項」の放棄をめぐって」
第4部 キリスト教の実践と現場
久世 了「キリスト教学校の教育について――明治学院に即して」
深谷 美枝「病院チャプレンの実践研究から見た「キリスト教と日本社会」」
下田 好行「人間における霊性の進化と「キリスト教の秘儀」
――ルドルフ・シュタイナーの人智学をてがかりとして」
司馬 純詩「キャンパス・ミニストリーの前線にあって」
書評
〈他者への貢献〉を志向する多角的アプローチ
神田健次
本書は、明治学院の創立一五〇周年を記念して、大学キリスト教研究所の所員・名誉所員二〇名の論文・エッセイをまとめたものであり、歴史研究をはじめ、キリスト教思想研究、実践と現場からの論考など、その内容は多分野にわたっている。
冒頭の大西晴樹「米国長老・改革教会宣教師ヘボン、ブラウン、フルベッキの功績――W・E・グリフィスによる伝記から」の講演を承けて、第一部「救いと正義――古代・中世社会と宗教」では、成瀬武史「ロゴスの磁界――夕日の色や犬の鳴き声はだれが決めるのか?」、千葉茂美「デルポイの神託をめぐって――古代宗教の一断面」、久山道彦「オリゲネスにおける戦争倫理学――古代キリスト教における宗教的生の一断面」、手塚奈々子「パドヴァの聖アントニオの説教における祈りと回心」、齊藤栄一「夜の復権――ヨーロッパ美術における月の諸相」の論考が続いている。また第二部「思想と信仰」では、森井眞「今、いや常に、キリスト教は問われている――ジャン・カルヴァンのこと」、佐藤寧「『沈黙』と信仰そして愛」、新倉俊一「大いなる記号――ブレイクと大江文学」、中山弘正「キリスト者とマルクス経済学」、橋本茂「"Jedem das Seine" を巡って――ひとつの正義論」、柴田有「自然にたいする罪」が収録されている。
さらに第三部「近代国家とキリスト教――歴史と省察」では、播本秀史「万人救済説――新井奥邃と内村鑑三を中心に」、加山久夫「賀川豊彦と公共の神学」、遠藤興一「天皇制慈恵主義とキリスト教」、渡辺祐子「キリスト教伝道と国家――不平等特権「寛容条項」の放棄をめぐって」、そして、第四部「キリスト教の実践と現場」では、久世了「キリスト教学校の教育について――明治学院に即して」、深谷美枝「病院チャプレンの実践研究から見た「キリスト教と日本社会」」、下田好行「人間における霊性の進化と「キリスト教の秘儀」――ルドルフ・シュタイナーの人智学をてがかりとして」、司馬純詩「キャンパス・ミニストリーの前線にあって」が収録されている。
まず注目したいのは、本書が明治学院の一五〇周年の記念としてだけではなく、一九五二年以降の大学キリスト教研究所の六〇年以上に及ぶ歩みにとっても、一つの記念碑的な論文集になっている点である。冒頭の大西晴樹氏の講演は、W・E・グリフィスによる伝記を通してのヘボン、ブラウン、フルベッキ等の学院創立に関わる宣教師研究として興味深く、全体の象徴ともなっている。また歴史研究で瞠目すべきものとして、例えば、戦争と平和の問題をめぐるオリゲネスの見解を問い直した久山道彦氏の論考は読み応えがある。
さらに思想研究でも、古代以来、「分配の公正」を意味した名句とナチスのユダヤ人虐殺の関係を考察した橋本茂氏、原発問題の問いかけから現代の科学技術の問題性に迫った柴田有氏などの論考、あるいは近代国家とキリスト教との関連では、多方面にわたる賀川の防貧としての社会運動の思想を「公共の神学」として考察した加山久夫氏、一九二〇年代の中国におけるキリスト教宣教の特権放棄の問題について論及した渡辺祐子氏などの論考は、斬新な視点が盛り込まれた、今日的に示唆に富む内容である。
そして、最後の「実践と現場」からの貢献では、院長時代の見解を盛り込んだ久世了氏の文章は優れた内容のものである。また、病院及び大学のチャプレンの現場からの深谷美枝氏と司馬純詩氏のリポートは貴重なものであり、特に大学生によるアンケート調査の結果から、司馬氏がキリスト教教育の課題の提示と提言を行っている事柄は、共通の課題に直面しているキリスト教学校関係者にとって有益であろう。
二一世紀の危機的な現代世界の状況の中で、学院のモットー「他者への貢献」(Do for others)を志向しつつ境界を超える多角的なアプローチを試みた本書を、心よりお薦めいたしたい。
(かんだ・けんじ=関西学院大学神学部教授)
『本のひろば』(2013年12月号)より