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内容詳細
新時代を歩む教会の全貌を概観
カトリック教会が信じるものは何か? その信仰はどのように実践されてきたのか? 全世界で約10億人の信徒を有するまでに発展したカトリック教会の歴史と現代における課題を、聖書と伝統、秘跡と祈り、宣教と改革、倫理的生活、諸宗教間対話などのキーワードから多面的に紹介する最新の概説書!
書評
カトリック教会の過去と現在
岩島忠彦
「カトリック」とは何か? ご存じのように、もともと教会の特徴を表現する言葉で、古くは二世紀初めのアンティオキアのイグナティオスも教会をカトリックと呼んでいる。「普遍的」に相当するギリシア語であり、キリスト教会はすべての人にとって決定的に大切な存在であると言っているようなものである。しかし一六世紀の宗教改革以来、プロテスタントやアングリカン教会に対する教会の呼称として用いられるようになった。もともと教会はカトリックであった、しかし今は半数ほどのクリスチャンの教会を指す呼び名となった。本書は後者の意味でのカトリック入門である。
著者L・S・カニンガムは米国で教鞭を取るカトリック信徒であり、カトリック教会を言わば「内側から」描いている。とは言え、十分に公正であり説得力を持つ。それは著者のカトリック教会のとらえ方が、多角的であり、かつ歴史的であるからである。そこではカトリック教会を、その建築を始め、教理、信心、礼拝とくにミサ、諸秘跡、制度とくに教皇制度、霊性とくに修道会、カトリック倫理などの面から重層的に描いていくからである。その際、それぞれの章は歴史的に回顧され今日に至る道筋が確認される。アウグスティヌスはもとよりキプリアヌス、護教論者、さらにはしばしば新約聖書にまで遡る。終わりの方で著者も言う。「本書に一貫して流れる論旨の一つは、カトリシズムの過去と現在の間にある緊張関係を論ずることである」(三六一頁)と。ということになると、これはカトリック教会についての書物であると同時に、古代以来の意味でのカトリックについての書でもあることになる。一六世紀までは、キリスト教会がすべて「カトリック」の範疇に属していたのである。
歴史的推移を確認しながら、著者が現代のカトリック教会の立ち位置を確認することを目指していることは明白である。カトリック教会は幾度も脱皮し、時々に対応した形態を取ってきた。諸伝承を尊重しながら、新たな局面・新たな諸問題に対処しようとする。こうした努力の最後のものが第二バチカン公会議(一九六二~六五年)である。著者はこの公会議で成立した一六の文書にしばしば言及する。また公会議の宿題の一つであった『カトリック教会のカテキズム』(一九九二、九七年)を引用して、現時点でのカトリックの公式見解を確認しようとしている。公会議はこれまでのカトリック教会の姿勢を大きく改めた。まずは教会が自己の救いのためにあるという閉鎖的考えを改め、教会が全世界・全人類のために貢献する使命を持っているとして、自己の存在意義を「外」との関係で規定し直した。それと関連して、プロテスタント教会との関係を積極的に見直し、さらに他宗教の存在意義をも前向きに評価し直した。この公会議終了から五〇年近くが過ぎている。
著者は事実上の最終章、第一一章で、この公会議が決意した方向転換がどの程度実現しているかをこれまた、個々の領域にわたって検証している。難民、原理主義、西欧の世俗化、世界規模のテロリズム。教会内においても教皇庁の改革、信徒の奉仕職、エキュメニズムなど、ある程度の進展は見せたもののまだまだ理想にはほど遠い。
本書はカトリック教会とは何かについて、理念よりも実際の姿をリアルに分かりやすく提示している。四〇〇ページを越す本文は、きっちりとその全体像を描き出している。ただしやはり『カトリック入門』である。それぞれの分野を四〇頁前後でまとめているため、より突っ込んだ考察が欲しいと思う点も多々ある。それは教理においても倫理においても感じさせられる。著者はその限界に気づいて、多くの文献を各章の終わりに挙げてさらなる研究を促している。
かつてR・マクブライエンの名著『カトリシズム』は総合的なカトリック入門書であった。今日、日本語で最新の『カトリック入門』を読むことができることは喜ばしい。
(いわしま・ただひこ=上智大学神学部教授)
『本のひろば』(2013年10月号)より