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内容詳細

「カトリック教会」とは何か

迫害、改革、分裂など、数多くの難問に直面しながらも、世界宗教へと発展し、歩み続けるカトリック教会。聖霊降臨から現代に至るまでの膨大な歴史を、エキュメニカルな視点でコンパクトにまとめた、教会の歴史と伝統を理解するための必読の書。
約600年ぶりとなる「教皇退位」の発表、そして中南米から初の新教皇選出など、全世界からその動向が注目されている中で、カトリック教会の歴史を知りたいすべての方にお勧めしたい一冊。

 

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書評

民衆に支えられた教会の歴史を学ぶ必読書

高柳俊一

 青天の霹靂のようなベネディクト一六世の突然の辞任と南米からの新教皇フランシスコの出現等々、このところカトリック教会の話題が我が国のメディアでも注目を浴びている。本書の著者はイギリス人、ローマのグレゴリアナ大学教授である。原著は二年前の出版だったが、その邦語訳出版は偶然にも時機を得たものとなった。

 二〇〇〇年のカトリック教会史を「小史」にまとめ上げるのは至難の業だと思える。著者は教会史を聖霊降臨の出来事から語り始める。本書の特徴は著者が教会史に芸術、文化の歴史を結びつけ、特に「民衆」の動きに注目していることである。古代ローマ帝国時代の迫害を受けた少数派非合法宗教から、公認宗教時代、東西教会がまだ一つの時期、ローマ帝国分裂から次第にゲルマン諸族の侵入に西方教会がローマ司教を中心に対応し、彼らを改宗に導き、西欧の精神的統一を果たし、中世を通して一つの宗教・文化圏を形成し、宗教改革の時代に至るまでそれが続いた。ここまでは「カトリック教会史」というよりはカトリック、プロテスタントが共有する西方キリスト教史である。

 宗教改革の諸教派の出現はカトリック内部の刷新運動を引き起こし、新しい修道会が現れ、芸術、文化、学問における刺激となったばかりでない。ヨーロッパの大航海時代と重なり、トリエント公会議後の近代カトリック教会が世界を意識し、活発な宣教活動に乗り出す機会となった。その結果が現在の世界のカトリック人口をもたらした。

 逆転劇は他にもある。カトリック教会は近代国家と激しく敵対した。フランス革命によって徹底的に痛めつけられた。ナポレオンは教会を復活させたが、教皇を幽閉し、皇帝の権威を認めるよう強要した。一九世紀のはじめには、教皇の権威は地に落ちていた。しかし教会は民衆の篤い支持を受け、かつ列強の司教たちは政府との対決でローマの権威を必要とした。一九世紀にはイタリア統一の運動によって領地を失い、教皇はみずから「ヴァティカンの囚人」となった。しかしその反面、かえって精神的権威が高められ、国際政治で一目置かれるようになった。

 一九世紀末の第一ヴァティカン公会議は近代への対抗姿勢を鮮明にしたが、イタリア統一軍がローマに迫ったので休会とされ、以後再開されることはなかった。その開催七年前、教皇ピウス九世はキリシタン時代の二六人の日本殉教者を聖人に列する式典を盛大に祝った。教皇の権威の高揚は教会内の「近代主義」の浸透に対する過度の恐怖、「近代主義者」と疑われた人々への過酷な処断の裏面があった。著者が第二ヴァティカン公会議の推進に貢献したとして挙げているコンガール、リュバック、ラーナーたちは皆そのような処断を受け、被害を被った神学者たちであった。

 第二次大戦におけるナチのヨーロッパ大陸席捲、戦後の東欧の共産主義支配はカトリック教会にとって大きな試練であった。イタリアの共産党の進出は、東欧と同じくもうすぐ共産党の独裁政権がイタリアで出現し、包囲されるのではないかとの恐怖感をヴァティカン聖職官僚に抱かせた。ヨハネ二三世は第二ヴァティカン公会議を招集してそのような恐怖感を打破し、新機軸によって信仰、無信仰の壁を除き、キリスト教と他宗教、カトリックと他教派の違いを乗り越えて全人類の幸福のために歩みを同じくするというヴィジョンを実現しようとした。

 カトリック教会は、西欧の伝統的カトリック圏における低迷と教会が成長している新天地(南米とアフリカ)の際だった対照を示している。米国、ヨーロッパでは聖職者の不祥事が次々と暴露され、教会当局者に対する信頼はおおきく揺らいだ。ヴァティカンの組織改革と人心一新が待ったなしの急務である。カトリック教会は世界中に一一億の人口をもつ、文字通りグローバルな教会となったが、第二ヴァティカン公会議が目指した「アジョルナメント(現代化)」の完結までにカトリック教会はまだ多くの障害を克服して進んでいかなければならないのである。

(たかやなぎ・しゅんいち=上智大学名誉教授)

『本のひろば』(2013年7月号)より