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『ぼくが子どもだったころ』
エーリヒ・ケストナー 作
ホルスト・レムケ 絵
池田香代子 訳
岩波書店 刊
2023年8月 発行
定価968円(税込)
318ページ
対象:中学生以上
笑いあり、涙あり、作家ケストナーの傑作自伝
ドイツを代表する作家であり、1960年に第3回国際アンデルセン賞を受賞したエーリヒ・ケストナー。彼が子どもと大人の双方に向けて書いた自伝がこの『ぼくが子どもだったころ』(旧『わたしが子どもだったころ』)です。長く品切れになっていたものがこの度、新訳で再登場しました。
ケストナーの本といえば本題に入る前の「まえがき」に特徴があり、自伝といえども例外ではありません。そして「まえがき」に続くのは彼が生まれる前の両親(特に母親)の子ども時代のこと。自伝にも関わらずケストナーが生まれるまでにほぼ4章(全体の4分の1、約80ページ)が費やされます。が、本題に入らないから退屈かといえば全くそんなことはありません。それどころか100年前のドイツという国や人々の暮らしぶりが垣間見えてとてもユニークです。ケストナー自身の子どものころのエピソードには後の物語のもととなるものも散見し、作品のファンにとってはそんなところも楽しく読めることでしょう。たっぷりと挿入されたレムケの洒脱なイラストが可笑しみを増しており、読みながら何度も笑いが込み上げました。
自伝を読むとケストナーは母親にとっては“優等生”の大変親孝行な少年だったようですが、彼と母との関係は単に愛情に満ちた幸福なものだったわけではなかったことが、第11章「子どもの悩み」に綴られています。この章の不安と息苦しさを幼いケストナー少年が感じていたと思うと、胸が詰まる気がします。
まるで隣にいるケストナーおじさんが私に語りかけてくれるような自伝は人生についての教訓が随所にちりばめられており、彼の児童文学以上にストレートに社会と人間、そして生きることの意味を読者に示してくれます(もちろんたっぷりのユーモアを交えて!)。作品を読んでまた自伝を読み……と、相互に行き来するうちにケストナーという人がより立体的に見えてくることでしょう。(か)
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