クリーンヒット⚾ フィクション
『車いすでジャンプ!』
モニカ・ロー 著
中井はるの 訳
小学館 刊
2023年12月 発行
1650円(税込)
317ページ
対象:小学校高学年から
壁も、溝も、夢も、恋も、アクロバティックにつきすすむ!
エミーは車いすモトクロスのアスリートに憧れる12歳の少女。父親が作った裏庭のクウォーターパイプでジャンプの練習をしながら、モトクロス用の車いすを買うために、友人とオンラインショップで手作りの車いすバックを制作・販売しています。通っている地元の学校の古い校舎に不便はありながらも、概ね楽しい七年生の生活を送っていました。ところがある日、お節介な男子生徒の余計な手助けがあだとなってエミーは学校のスロープで激しく転倒してしまいます。そして、この事故がきっかけとなって彼女の意思に反して専用の介助員・ドーンが付くことになるのです。仕事熱心なドーンは授業中はおろか、ランチやトイレにまでついてきてエミーは爆発寸前。そこで友人たちとともに彼女に対して“想像力あふれるちょっとしたお仕置き”を実行します。
一方、エミーが新しい高性能車椅子購入のためにお金を貯めていることを知った校長は、「学校の好感度アップにもつながる」とチャリティー行事を行うことを提案します。早く希望が叶いそうだと嬉しい反面、なんだかモヤモヤするエミー。イベントは大成功で資金は2500ドル以上集まりますが、「いちばんおいしい魚は、いちばん苦労して釣り上げた魚」だということに気づいたエミーは、寄付金贈呈式のスピーチで一計を案じるのです……。
エミーは車いす使用者であること以外は普通の女の子です。2年前に母親が亡くなってから父親は仕事と勉強が忙しくて、学校での悩みもなかなか相談もできません。そんな中、自身のオンラインショップで知り合った同じ車いす使用者の“アラスカ・サーモンおばあちゃん”が、彼女に斜め45度の大人として素晴らしいアドバイスをしてくれたことに、一読者として救われる思いがしました。
「障害者が努力をして立派なことを成し遂げる感動物語」を無意識のうちに期待してしまう、当事者不在の勝手な思い込みを打ち破ってくれるエミーの言葉や行動が、物語をぐいぐいと引っ張っていく爽快感がたまりません。「何をしてほしいか、ほかの人じゃなくて、あたしに聞いて」というエミーの言葉や、「知らないことについてはまちがいをおかすものだ。だから、対話し続けるんだ。」というミリング先生の言葉は、違った個性を持つ他人同士が理解し合うために最も大切なことを教えてくれています。(か)
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