クリーンヒット⚾ フィクション
『THIS ONE SUMMER』
マリコ・タマキ 作
ジリアン・タマキ 絵
三辺律子 訳
岩波書店 刊
2021年7月16日 発行
定価2420円(税込)
317ページ
対象:中学生から
少女に訪れる特別な季節を繊細な筆致で描いたグラフィック・ノベル
主人公のローズは思春期に差しかかった年頃の少女です。幼いころから夏になると来る湖の別荘でのひと夏を描いた物語。年下の友だちウェンディとの微妙な関係性、ぎくしゃくしたパパとママ、食料雑貨店で働いている青年ダンクへの恋心…。年頃の少女の繊細な気持ちが丁寧に描かれます。
墨(黒)ではなく紫っぽい青のインクで印刷されているのも、本書の特色です。夏の思いを絵でも色でも表現しています。
グラフィック・ノベルとは、文学的な漫画とでもいえばいいのでしょうか。とはいえ、日本の少女漫画とは全く別物。「ちゃお」や「りぼん」ではないことは確かですし、大島弓子や萩尾望都、吉田秋生らの描く世界観とも違う、翻訳文学の香りが漂います。翻訳文学を読んだことのない人には、少し読みにくいかもしれません。
とはいえ、複雑な主人公の気持ちがぐっと迫ってくる描写は、秀逸。それには訳者の力量もあるのかもしれない、と思いました。吹き出しに収まるように日本語を当て込むのは、至難の業ではないかしら? それも説明文ではなく、心の揺れを描いた本作のような作品では尚のことと思います。
当事者にはきつい心地も、過ぎ去った人にとってはなんとなく懐かしさを覚えるものかも。
年頃の微妙な言葉では表現しにくい感覚も、絵で伝えることに成功しています。
本作は2015年、コールデコット賞のオナー賞受賞作で、グラフィック・ノベルでは初の受賞とのこと。他にも多くの賞を受賞していることからも注目の1冊といっていいでしょう。 (す)
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