ベスト👍 フィクション
『紙の心』
エリーザ・プリチェッリ・グエッラ 作
長野 徹 訳
岩波書店 刊
2020年8月 発行
本体1,700円+税
252ページ
対象:中学生以上
サスペンスを含んだ青春書簡体小説
恋をした。
曇りのないまなざしでひかれあう彼らの姿に。そのみずみずしさに。
うらやましいほどのひたむきさに。
――物語はこうだ。
退屈しのぎに見知らぬ誰かに宛てて手紙を書いた少女は、それを見つけた少年とひそやかに手紙のやり取りを始める。直接会わないことを条件に偶数時と奇数時に図書室の本に手紙をはさむ二人。
手紙交換に使うのはキプリングの『プークが丘の妖精パック』。名前さえ明かさない二人は、互いを『プークが丘の妖精パック』の兄妹からとった「ダン」「ユーナ」と呼び合う。
好奇心を募らせ互いの姿に想像をめぐらせる彼らの様子は、ただでさえ他人の手紙をのぞき読む感覚の読者としてはこそばゆく、また歯がゆくもある。
これだけだとありふれた恋愛小説のように感じるが、徐々に彼らのおかれる状況の特異性が見え隠れし、物語はサスペンス的な要素を含んで一気に加速する。
「研究所」「ID番号」「ティーンエイジャーの問題を解決する治療法」「薬」「消去」……単なる恋愛小説とは一線を画すそれら不穏な響きの言葉の数々が読者をとらえて最後まで離さない。(読む人の楽しみを奪ってしまうのでこれ以上は控えるけれど!)
ユーナはダンに言う。
「わたしの心は、本当に紙でできてるの。だって、こんなにももろくて、いつどうなっちゃうかわからない。引き裂かれたり、丸められたり、焼かれたり、くずかごに捨てられたりするかもしれない。小さくちぎられて、飛んでいってしまうかも。」
若さゆえの繊細な心をガラスではなく紙に例えたこの部分には、読み手の胸を打つ前後がある。
行間から立ちのぼる彼らの清らかな思いやりとほとばしる情熱を感じとってほしい。 (い)
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