ベストノンフィクション
『お蚕さんから糸と綿と』
大西鴨夫 写真文
アリス館 刊
2020年1月 発行
本体1500円+税
対象:中学年~
48ページ
糸は生きている。命あるものからできている
久しぶりに手に取る度に、愛おしさを感じる作品に出会いました。
滋賀県の山の麓にある集落で、養蚕を営む西村さん一家と「お蚕さん」との生活を綴った写真絵本、1月に出版されたものですが、満を持してのご紹介です。
西村さんの家では、春と秋の2回、お蚕さんを育て糸取りまでします。
1万頭以上のお蚕さんが繭になるまで、ご主人の英雄さんが桑畑の桑を刈り取っては運び、家族総出でお世話をします。あっという間に桑を食い尽くすお蚕さん。「いい糸を出してもらわんとな」とみんな大汗をかきながらも、笑顔で働きます。
芽吹きの春は桑の葉も柔らかく、お蚕さんは柔らかな糸を吐き出し、秋になると葉っぱが硬くなり、糸も硬くなるそうです。
春の糸と秋の糸。
繭になったお蚕さんは、糸取り名人の一子さんと則子さんの手によって魔法のように紡がれていきます。小枠に巻き取られた糸の何と美しいことか!
12月には、虫供養が近所のお寺で開かれます。羽ばたこうとする寸前の命を絶ち、人の手によって温もりへと変えられ、私たちの暮らしを豊かにしてくれたお蚕さん。
昔は多くの農家で営んでいた養蚕も、今はこの地域では西村さんの一家だけになってしまったそうです。
「糸は生きている。命あるものからできている」―「お蚕さん」から生まれ、慈しまれながら、製品となったものには、命の輝く温もりがあるのだとしみじみ思いました。
「命の授業」「日本の伝統」という言葉を盛んに聞きますが、パン屋が和菓子屋に変えられたヘタな道徳の教科書(失礼!)をほじくりかえして授業するより、ただひたすらこの写真絵本を読んでもらった方が、1000倍子どもたちの心に伝わる!と心から思います。
まだお読みでない方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
ここには、私たちが置き去りにしてしまった「大切なもの」が確かにあります。 (く)
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