ベスト👍 絵本
『アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし』
ジャネット・ウィンター 作
福本友美子 訳
さ・え・ら書房 刊
2022年2月18日 発行
定価1,650円(税込)
38ページ
対象:小学校低学年から

学ぶ、そして生きるということ

「なぜ、人は学ぶのでしょう?」
誰かにそう問われたら、みなさんは何と答えますか?

私たちが暮らす日本には義務教育制度があり小学校から中学校までの9年間、すべての子どもが無償で教育を受ける機会を得ています。貧富の格差はあれど、男子も女子も平等に学校に通うことができます。人が何かを学ぼう、吸収しようとする力は偉大です。しかし、世界に目を向けるとき、至極当然のように感じるそれが “普通” ではないことに気づかされます。例えば、この『アフガニスタンのひみつの学校』のように。

主人公はアフガニスタンの古都ヘラートに住む少女ナスリーン。語り手の孫娘です。
ヘラートは芸術や学問の盛んな町として知られていましたが、タリバン政権の支配により人々の暮らしは一変。仏像や仏舎利塔が破壊され、音楽は禁止、テレビやDVD、CDなども捨てられるように命じられます。
女性は家族以外の男性に顔を見せてはならず、目の部分だけが開いたブルカという服を着ることが義務付けられます。一人で自由に出かけることは許されず、必ず男性と一緒でなくてはいけません。そして、女子教育も廃止されました。

人々が不安に駆られる中、ある日、町に兵士がやって来てナスリーンの父親を連れ去りました。父親の帰りを待つ辛い日々。さらには、父親を探しに行くと言って母親も危険を冒して家を離れます。深く傷ついたナスリーンは、一言も口を利かなくなってしまいます。
そのころ、町に女の子が通うひみつの学校があるという噂が広がります。ナスリーンと祖母が暮らす家のそばにある緑色の門。理不尽な抑制と差別にまみれた現実と未来への光に溢れる場所との確かな境界線です。祖母は、ナスリーンを学校に通わせることを決意します。またしゃべるようになってほしいと願いを込めて……。

ナスリーンがひみつの学校で学んだことは単なる知識に過ぎませんでした。それがどんなに太い幹となって彼女の心に根を下ろし枝葉を広げたことか。ぜひ絵本を開いてみてください。

さて、冒頭の問いに対する私の答えといえばーー。

「学びとは、その人自身がどう生きたいか、“人生” そのものだと思います」

学びから湧いた未知の事物に対する興味は探究心や思考力を高め、同時にそれらを伝達しようとするコミュニケーション能力や行動力を養います。その中で繰り返される多くの失敗と成功によって培われる適応力、柔軟性、賢明さ、そして他者を思いやり敬う念は、やがてその人の “豊かな魅力” となります。学ぶということは限りない可能性を秘めています。
人生は途上。世界を広げる扉を求めて、私は今日も本のページをめくります。 (い)

 

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