ベスト👍 絵本
『ジュリアンはマーメイド』
ジェシカ・ラブ 作
横山和江 訳
サウザンブックス社 刊
2020年5月 発行
本体1800円+税
32ページ
対象:幼児以上
「ぼくもマーメイドなんだ」
ジュリアンは男の子。マーメイドがだいすき。
おばあちゃんとのプールの帰り道、電車にマーメイド姿のお姉さんたちが乗り込んできます。すっかり目を奪われたジュリアンは、想像の世界に泳ぎ出します。水中で着ていた服を脱ぎ捨て、髪の毛が伸びたジュリアンの前を魚の群れが泳ぎ去ると、なんとジュリアンの両足はマーメイドのひれになっていました。
そんな考えを巡らすジュリアンにおばあちゃんが言ったのは、「シャワー、あびてくる。いいこにしてるんだよ」。
そこでジュリアンは……。
優美なもの、鮮やかなものに憧れるのは女の子に限ったことではありません。読者によっては、ジュリアンはそうした対象の一つとして純粋にマーメイドに焦がれていたとも受け取れるし、あるいはセクシャリティの問題を抱えているとも感じられるでしょう。
つまりはこの絵本の解釈は読者一人ひとりにゆだねられているといえます。
「ゆだねられている」と評した理由の一つは、本文が最低限にとどめられていること。
絵は言葉以上に雄弁で、ジュリアンの表情や動きからは、彼がどんなに「本来の自分」を楽しんでいるかが伝わり、読者は彼と一緒になって一喜一憂します。
またクラフト紙に水彩で描かれた淡い色合いは、ジュリアンのあふれる喜びもおばあちゃんの不服そうな顔もけして押しつけではなく、清らかな思いやりを持って読者の心にやわらかな印象を残します。
絵本を読み終えたら、前後の見返しも忘れずにご覧ください。ここにも小さなお話の世界が広がっていますよ。(い)
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