ベスト👍 フィクション
『イワンの馬鹿』
レフ・トルストイ 作
小宮 由 訳
アノニマ・スタジオ KTC中央出版 刊
2020年10月 発行
本体1,600円+税
対象:小学校高学年以上
愚直に生きることの強さと幸せ
『イワンの馬鹿』というタイトルは知っていてもどんな話だったか?
そして、“トルストイ文学の翻訳家”と言われた北御門二郎氏の孫である小宮由さんが、なぜあえて新訳を?
しかも、挿絵はあの『こねこのぴっち』(岩波書店)のハンス・フィッシャーによるものだと聞けば、手にしたい方が多いのは当然。この10月に発売されたばかりのこの本、ナルニア国では先行発売したこともあり、既に50冊以上が売れています。
でも、話題性だけでお薦めしているのではありません。
権力やお金に人生の価値を求めた兄たちが簡単に悪魔の誘惑に陥った一方で、愚直な農夫の弟イワンと耳が聞こえない妹こそが平穏な日々を守ることができたというこの物語は、今のような時代に、人が人として生きてゆく肝のようなものを与えてくれます。
語りを聴いているような心地になるこの新訳を、子どもに向けて声に出して読む機会が得られれば、わたしたち大人のほうが力をもらえること間違いなしです。
文豪トルストイは『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などで名声を得たその後に、民衆とともに生きることを望み、『イワンの馬鹿』をはじめとする民話に材をとった物語を書き始めたそうです。
詳しくは、本編のあとに収録されている「解説」「訳者あとがき」「資料」をじっくりとお読みください。
「解説」ではトルストイとフィッシャーについて、「あとがき」には北御門二郎氏について触れられています。
北御門氏は太平洋戦争時に死刑覚悟で戦争に行くことを拒否した人です。(日本にそんな人がいただなんて!)
17歳で『イワンの馬鹿』を読んだことが、兵役拒否という生死に関わる重大な選択をするきっかけとなったといいます。
「資料」には北御門氏の自著、対談集、聞き書きなどから『イワンの馬鹿』について触れている文章を由氏がまとめられ、こちらも本編と肩を並べる読み応えがあります。
デジタルでは決して味わえない、本というコンテンツの持つ長い歴史を感じさせる美しい装丁からも、この本をつくった人たちの思いが伝わってきます。(や)
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