クリーンヒット⚾ ノンフィクション
『じいじが迷子になっちゃった あなたへと続く家族と戦争の物語』
城戸久枝 著
羽尻利門 絵
偕成社 刊
2019年8月
本体1,600円+税
186ページ
対象:小学校高学年以上

私につながる家族の物語、その一部には必ず“あの戦争”がある

1941年 満州(今の中国東北部)で生まれた城戸幹は、1945年 日本の敗戦の混乱で中国に取り残され残留孤児となる。中国人の養母に引き取られた幹は“孫玉福(スンユイフー)”という新しい名前をもらい、貧しい中でも大切に育てられた。そして大学入学試験を目前に控えた高校3年生の年、同級生から日本人であることを隠していると責められた玉福は、記録をすべて「中国人」から「日本人」へ変更するのだが、それによって大学進学の道を閉ざされてしまう。中国で「日本人」として生きることの限界を知った玉福の心には生みの親への思いがつのり、まだ日本と中国の間に国交がなかった1959年、日本の赤十字に当てて初めて「両親を探してほしい」という手紙を書く。玉福18歳、中国残留孤児の肉親捜しが本格的に始まる22年前のことだった。

ノンフィクションライターの城戸久枝さんが、自分の父親(城戸幹)の体験を8歳の息子に語るという形で書かれた本書は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『あの戦争から遠く離れて――私につながる歴史をたどる旅』(2007年/情報センター出版局。現在は新潮文庫)を、子ども向けにリライトしたものです。1970年代生まれの私はニュースで、残留孤児の人たちが戦後40年以上たって肉親と再会する場面を目にしたことがある世代ですが、今の子どもたちにとっては、そんなことがあったことさえ知らない歴史のかなたの遠い出来事になってしまっているのではないか、城戸さんと同じ危惧を覚えます。

戦争は国の指導者が道を誤った時に起こりますが、そのために最も苦しむのは弱い立場の人々です。決して感傷に走ることはありませんが、中国の養母と日本の両親のへの思いに心が引き裂かれそうになる幹(玉福)の帰国の場面では、「人にこんなに悲しい思いをさせるのが戦争なのだ」という事実が重く迫ります。

大人の方にはぜひ、元になったノンフィクション作品も読んでいただきたいと願っています。 (か)

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