ベスト👍 フィクション
『海を見た日』
M.G.ヘネシー 作
杉田七重 訳
鈴木出版 刊
2021年5月 発行
定価1760円(税込)
286ページ
対象:小学校高学年から
世間という荒波を漂流する、4人の子どもたち
ロサンゼルスで里親のミセス・Kの元に暮らすナヴェイア、ヴィク、マーラの家に、もう一人男の子がやって来ます。名前はクウェンティン――自分の内に引きこもっているようなこの子を、ケースワーカーのミズ・ジュディは「アスペルガー」だと言いました。そしてやってきたその晩に母親のところへ帰ろうと家を抜け出したクウェンティンを無理やり連れ戻す中、ナヴェイアとヴィクは「必ずママと再会させる」と約束してしまうのですが……。
ナヴェイアは13歳の中学2年生。2歳で母親を亡くし、この11年間に7軒の里親を渡り歩いた彼女は、ミセス・Kの家でなんとか大学入学までの時間を過ごすことと、優秀な成績で大学に入学してこの境遇から抜け出すことだけを考えています。
ヴィクは父親が本国に強制送還され、たった一人でアメリカに残された小学5年生。厳しい現実を受け入れることの難しい彼は、自分の創り出した架空の世界(以前はスーパーヒーロー、今は凄腕のスパイ)に生きています。
マーラの両親については触れられませんが、ラテンアメリカからの移民らしく、英語はほとんど話せず終始だんまりで暮らしています。
そして、養母のミセス・K(クズネツォフ)は、5年前に夫を亡くしてから一人で里親をしていますが、仕事で夜遅くなることも多く、精神も不安定で、子どもたちの面倒をきちんと見られません。ヴィクやマーラの生活全般は年長のナヴェイアが見なければならず、それは13歳の少女にとって大きな負担です。寄せ集めの同居人はばらばらで孤立していてとても家族とは言えないものですが、クウェンティンの母親探しの冒険を通して子どもたちは互いをかけがえのないものとして確かめ合い、支え合う存在であることを身をもって知るのです。
それぞれに問題を抱えた子どもたちの短いスリル満点の冒険は、初めて海を見た感動と共に彼らの心に大きな成長をもたらしました。それは物語最後のヴィクのセリフに現れています。
「“もっといいところ”なんてない。みんなここがいいんだ(中略)——ナヴェイアと、マーラと、Qと、ミセス・Kは、オレにとって大切な人なんだって。だから出ていくようなことになるのはいやだ。だれひとり、ここから出ていってほしくない」
家族ってなんだろう、幸せってなんだろう。そんなことを照れずに真正面から見つめた作品です。(か)
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